ユニバーサルマナー検定を受講された、俳優・佐藤二朗さんにインタビューをしました!
目次
・舞台、「そのいのち」について
・障害のあるキャストとの向き合い方
・ユニバーサルマナー検定を受講して
舞台、「そのいのち」について
ユニバーサルマナー検定を受講することになったきっかけである、舞台『そのいのち』について教えていただけますか?
妻に「すごく良い歌があるよ」と教えてもらったのが中村佳穂さんの「そのいのち」でした。聞いてみたらすごく心動かされました。歌詞の中に、「いけいけいきとしgo go」という歌詞があって、生あるものすべてに対する讃歌・応援歌のように僕は受け取ったんです。「この歌が流れる物語を書きたい」という想いから、舞台脚本を書き始めました。ちょうど優生思想(優秀とされる人の子孫を残し、劣るとされる人の遺伝子を淘汰することで、人類の遺伝的素質を改善しようという考え方)について調べており、それをテーマにした台本を書こうと考えていました。優生思想について関心を持っていたことと、この歌がどこかで流れる物語を書きたいという想いが繋がったんです。
舞台『そのいのち』では、障害のある方をキャストとして起用しています。当事者をキャスティングするに至った背景を教えてください。
『そのいのち』では、障害がある二人の俳優をキャスティングしています。一人は、脳性麻痺後遺症がある車いすユーザーの佳山 明(かやま めい)さん。もう一人は、筋ジストロフィーという難病がある車いすユーザーの上甲 にか(じょうこう にか)さんです。
この二人をキャスティングした理由はたくさんありますが、ミライロの垣内さんとの出会いが大きな理由の一つでした。ラジオ番組を通じて初めて垣内さんとお会いした時、「バリアバリュー」という言葉に共感を覚えました。これまで僕は「負を力に変える、それが生きること」という考えを大切にしながら作品をつくってきていて、垣内さんの言葉は、その考えと通ずるものがあったんです。学生時代のアルバイトで営業をした話も好きです。
ありがとうございます。学生時代にIT企業で営業のアルバイトをした時、車いすで訪問できる先は限られていた。その分同じ営業先に何度も顔を出すことで、「また車いすの垣内が来た」と覚えてもらえるようになった。営業成績でトップになった時、アルバイト先の社長からこう言われました。「歩けないことに胸を張れ。それはお前にとって強みだから」と。以来、この言葉は人生においても事業においても、私の道しるべとなっています。
そうそう、その話です。垣内さんと話していると、「障害者って一体何なんだろう」と思わされるほど、強い人だと感じました。
一切不愉快に感じず、何も深いことを考えずに、ただ笑って楽しめる作品を通して、それを観た人が少し元気になる、これも芸能の力だと思います。でも、できれば見たくないこと、目を逸らしたいこと、けれど現実にあること、起こりうることを忖度せず投げ掛けて、お客様に提示する。これも芸能のひとつの力だと思うんです。暗く深い闇を探らないと、本当の光は見出だせないんじゃないかと思うんです。
垣内さんと出会ってから、「障害者がかわいそう、だけでいいのか」と思っていたし、今回の作品でも障害のある俳優さんにキャストとしてオファーを出すことで、生への讃歌が流れる作品にしたかったんです。
キャスティングにも「負を力に変える」という想いが込められているんですね。
そうですね。もちろん誰かを傷つけるようなことはダメだけれど。たとえば命は大事であると訴える物語があるとして、それには命がものすごいぞんざいに扱われているのを見て、「これは許せない」って思うことで、本当に命の大事さにたどりつくこともあると思うんです。
マイナスの部分を見せるからこそ、あるべきもの、プラスに変えていくべきものが見えてくると思っています。「負を力に変える」のは自身の奮闘であったり、些細なきっかけによるもの。作品がそういうきっかけになるかもしれない。
負を力に変えるには、環境も大切。例えば、僕は最初に勤めた会社の社長のおかげで、負を力に変えるきっかけを得た。負を力に変えられる社会にするためにも、ユニバーサルマナーが広がることが大切だと感じます。
障害のあるキャストとの向き合い方
桂山さん、上甲さんと実際に稽古を始めてみていかがでしたか?何か工夫していることなどはありますか?
ハード面については、とにかく段差のあるところはバリアフリーにしました。我々が目につく範囲で段差は基本的に無くしています。ただ、すべての段差を取り除くことはできないので、座組全員で可能な限りフォローするようにしています。
なので、二人が困っていそうな時はすぐに手伝うようにしているし、本人たちにも「手伝ってほしい時や困ったことがあればちゃんと言ってほしい」と伝えています。事前にお互いにどのように歩み寄れるか詳しく話をしたけど、稽古を重ねていれば事前には想定していなかったことは起きるし、いつでも本人たちが求めていることに気づけるわけではない、全部は当然わからないから、「ちゃんと言ってほしい」と伝えています。
お互いにきちんと伝え合える信頼関係は大事ですよね。本作では障害のある当事者が鑑賞することも想定されますが、公演をする上で、舞台会場と工夫していること、連携していることはありますか?
車いすユーザーの方が鑑賞できる座席を可能な限り増やしたり、聴覚障害のある方には台本を貸し出す、等の工夫をできるよう準備しています。
ユニバーサルマナー検定を受講して
キャストだけではなく、鑑賞する人も障害者を想定して準備しているのは素晴らしいですね。すでに障害のある方との向き合い方を工夫しているようですが、ユニバーサルマナー検定を受けてみて、どのような感想をお持ちですか。
今回は『そのいのち』に関わるキャスト、スタッフみんなでユニバーサルマナー検定3級を受講しました。検定を終えると、みんな興奮気味に「受講して良かった!」と言ってくれました。「今まで知らなかった」「聞きたいけど、聞くのが恥ずかしくてそのままにしていた」「知らなくても生きてはいけるけど、知った方が絶対に良いと思う」「障害をテーマとした作品を作る際は皆が受けるべき」「大人になってから学ぶ機会は少ないからとてもよかった」「障害者に限らず、多様な方のことを考える良いきっかけになった」という学びや気づきが詰まっていたようです。
特に印象に残ったのは、「他人と同じところを挙げるのは難しいけど、他人と違うところはたくさん挙げられる」ということ。それだけ人と人は、違う。違って当たり前。それを認めて受け入れて、その上で手を取り合って生きていく。障害のある方々との関わりはもちろんだけど、広く普遍的な「学び」だと思いました。
佐藤さんご自身は、ユニバーサルマナー検定での学びを今後どのように活かしていきたいですか。
他者との違いを「許容」するというか、「愉しみ」たいですね。違うことは面白いことだと思うから。実は息子に「協調性ももちろん大事だし、好きにはなれない人とも大過なく過ごすことも大事だけど、たとえば10人のうち、君だけが他の9人と違うところがあったとして、もしかしたらそれは、君にとって大きな利点になるかもしれない」というようなことを、いつも伝えています。それもユニバーサルマナーに通じている学びかもしれません。
以前から息子さんにもユニバーサルマナーを伝えていたんですね。『そのいのち』をとおして、芸能業界における障害者の社会参画がさらに加速すると思います。どのような方々にユニバーサルマナーを学んでほしいと思いますか。
これはもう、表に出る人、出る人をキャスティングする人、裏方さん等、すべての人ですね。障害のある人が役者として活躍する上で、舞台は映像よりハードルが高いと思います。舞台は、2時間ノンストップで演技をしなければならないため、体力が必要になります。それに、映像はカットして編集ができるけれど、舞台はそれができない。そういう意味では、今回の作品は芸能業界にとっても新たな挑戦だと思うし、それを成功させることへのプレッシャーは大いにある。でもだからこそ、その山を越えることの意義を役者とスタッフが一丸となって感じているし、ユニバーサルマナー検定をみんなで受講して、その一体感がさらに高まったと実感しています。
ユニバーサルマナーを知っている、身につけている人は「かっこいい」、という垣内さんの言葉が印象に残っています。私たちも芸能をとおして文化に携わっていますが、ユニバーサルマナーを知っている人が増え、ユニバーサルマナーが日本の文化になれば、それは「かっこいい世の中」となるはず。もっと多くの人に広まってほしいです。
この対談から、『そのいのち』をとおして佐藤さんが社会に伝えたいことと、ユニバーサルマナーを通して私たちが社会に訴えかけたいことの重なる部分を知ることができました。それは、違いに「躊躇なく向き合う一歩を踏み出し」、違いを「認め合い」、違いを「愉しむ」人を増やすことだと感じました。今回の対談を読んでくださった多くの人がユニバーサルマナーを習得し、芸能活動における障害者の参画が一層拡がっていくこと、その一助を私たちも担いたいと想いを強くしました。貴重な機会を頂き、ありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。
検定のご案内
今回、特別に垣内俊哉が講師として登壇いたします。
この機会にぜひ、ユニバーサルマナー検定3級をご受講ください!