こんにちは、ユニバーサルマナー講師の薄葉です。今回はお届けするのはユニバーサルマナー対談。社会で活躍する障害のある方との対話を通じて、多様性をお伝えします。また、ゲストのライフストーリーを追体験しながら、ユニバーサルマナーの必要性について一緒に考えていただければうれしく思います。

◇第1回記事
辻さんと聴導犬のノエル①「聴覚特別支援学校の話」
◇第2回記事
辻さんと聴導犬のノエル②「学校での情報保障と聴導犬との出会い」
◇第3回記事
辻さんと聴導犬のノエル③「聴導犬に出会ったときお願いしたいこと」


インタビューアー:薄葉ゆきえ    
 【画像】薄葉プロフィール写真_バストアップ (2)
株式会社ミライロ ビジネスソリューション部 ユニバーサルマナーチーム 講師
薄葉ゆきえ
…聴覚障害のある講師として「外見からは見えにくい障害」に対する理解推進を目指し、全国の企業・自治体・学校などで講演を行う。


インタビュイー:辻 海里さん
辻さんの顔

――前回は、補助犬に出会ったときにお願いしたいことを、海外での体験をもとに伺いました。

薄葉
海外へ行かれた際、なにか困ったことなどはありましたか?

辻さん
はい。一番印象に残っている出来事は専門学校時代にイギリスへ研修に行った時のことです。空港のチェックインゲートでアラームが鳴ってしまい、僕だけパスポートのチェックを受けたことがあって、その時は戸籍を変更する前だったので、パスポートの性別欄には女性と記載されていました。ただ、僕の外見を見た空港の職員が不審に思ったのか、僕に「あなたは男性か?女性か?」と尋ねてきました。周囲には同じ専門学校の生徒たちが何人かいて、その子達は僕の性自認については知らなかったのですが、その子たちの前で「僕は男性です」と強制的に性別をカミングアウトさせられたという経験があります。

薄葉
当時は周囲の方にカミングアウトしていなかったんですね?

辻さん
いえ、入学してすぐに同じクラスの子達には僕が男性であることは伝えていました。ただ、そうしたことは言いふらすことではないので、他のクラスの生徒達などには伝えていない状況でした。

薄葉
なるほど。カミングアウトを初めてしたのも専門学校の時でしたか?

辻さん
友人に初めてカミングアウトしたのは専門学校でしたが、家族には中学3年生の時に伝えていました。

薄葉
差し障りなければ、その時のご家族やご友人の受け止め方を教えていただけませんか?

辻さん
親は泣いたり、否定したりしていました。専門学校の友人は、普通に「だからなに?」という対応をしてもらえました。大げさに騒がれたり、カミングアウトの後に態度が急変したりするのが何よりもイヤだったので、友人たちの対応はうれしかったですね。

薄葉
素晴らしい『さりげない配慮』ですね。ご家族に伝えた際には何かきっかけなどがあったのでしょうか?

辻さん
はい。当時、テレビで『3年B組金八先生』というドラマが放送されていました。そのドラマの中で僕と同じトランスジェンダーの生徒が出てきて、その生徒を見た時「僕はトランスジェンダーなんだ」と実感しました。それまで僕は自分がレズビアンなのか、トランスジェンダーなのか自分でもよくわからない時期があったのですが、ドラマを観て自分の性自認や性的指向について理解できたんです。ただ、勇気を出して家族に伝えても、テレビの影響だと思われて、当時は受けいれてもらえなかったんです。ショックでしたね。

薄葉
今は、ご家族は辻さんの性自認を受け入れてくれているのでしょうか?

辻さん
はい、今は性適合手術※ を終え、戸籍も男性に変更したので、家族も受け入れてくれています。

※性適合手術について(日本形成外科学会のHP


薄葉
性適合手術はいつ頃されたのでしょうか?

辻さん
27歳の時にタイのバンコクで手術をしました。国内に性適合手術をコーディネートしてくれる当事者団体があるので、そちらにコンタクトして手術のコーディネートをお願いしました。

薄葉
渡航や滞在の費用、入院も含めた手術代など総額で、いくらくらいかかりましたか?差し障りなければ、教えていただけませんか?

辻さん
性適合手術は公的な援助がないので、総額で200万円くらいかかりました。

薄葉
性適合手術は医師の診断があっても全額自己負担なんですね。びっくりです。

辻さん
医師の診断は手術の許可や戸籍変更のために必要なだけで、ホルモン注射やカウンセリング費用、手術の費用などは全額自己負担ですよ。費用を貯めるのが本当に大変でした。

薄葉
日本はトランスジェンダーの方が手術を受けたり、戸籍を変更したりするのにハードルが高い国なんですね?

辻さん
はい。それだけではなく、同性による結婚も国の法律上認められていないので、そうした意味でも日本はLGBTQが暮らしやすい国とは言えません。

薄葉
LGBTQの方が暮らしやすい国はどこなのでしょうか?

辻さん
オランダ、オーストラリア、カナダ、アメリカ、ドイツ、スウェーデンなどですね。アメリカはLAが暮らしやすいと聞いています。また、スウェーデンでは同性のカップルでも養子を迎えやすいようです。僕もパートナー次第では暮らしやすい海外の都市へ移住する可能性はあります。
  
薄葉
国内では当事者団体や支援団体も多いと思いますが、聴覚障害のあるLGBTQの方々を支援する団体はあるのでしょうか?

辻さん
最近、聴覚障害のあるトランスジェンダーの方が立ち上げた主に情報提供を目的とする団体があります。聴者は情報を得る機会が多くありますが、聴覚障害のあるLGBTQの人はそもそも情報自体が入って来ないという課題があります。僕自身も10代の頃、情報がなくて、すごく悩んだ経験があります。

薄葉
聴覚障害でありLGBTQでもあるというダブルマイノリティの立場だと、苦労されることが多いのですね……。若い世代の、特に聴覚障害のあるLGBTQの方へ伝えたいメッセージはありますか?


辻さん
ひとりぼっちだと感じても、決して1人じゃないし、世界は自分が思っているよりはるかに広い、と伝えたいですね。すべては自分の捉え方次第です。自分はスペシャルなんだとポジティブに捉えていれば、ポジティブな人達が周りに集まってくるんですよ。LGBTQは一過性のブームなどではなく、人類が誕生した時から存在しています。僕達は決して特殊な存在ではありません。聴覚障害者だって同じです。有史以来、聞こえない人たちは社会に存在していました。そもそも、僕は障害という言葉自体が好きではありません。ユニバーサルマナー検定でも伝えていらっしゃるそうですが、障害は聞こえないとか、性的少数者であるとかは関係ありません。障害は僕達の側のあるのではなく、社会の環境に存在するものです。僕はそうした想いがあって、今、大学で日本での障害者を取り巻く環境を学んでいます。ゆくゆくはアメリカのギャローデット大学※ に留学し、アメリカの法律も学んで日本に持ち帰り、日本の社会に貢献していきたいと考えています。

ギャローデット大学について


薄葉
素敵なメッセージ、ありがとうございます。ギャローデット大学はアメリカのワシントンDCにある、聴覚障害者のための大学ですね?辻さんの夢が叶うことを心から応援しています!今日は素晴らしいお話をたくさんお伺いできました。辻さん、ありがとうございました!

辻さん
こちらこそ、今日はありがとうございました!

 

 

最後に

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。いかがでしたか?

辻さんのお話から『障害は人ではなく環境に存在する』ということを実感していただけたのではないでしょうか。まだまだ社会には『障害(社会的障壁)』が存在しています。

今後も、ユニバーサルマナーを通して、誰もがありのままに暮らせる社会の実現を目指していきます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。また、次の記事でお会いしましょう!