こんにちは、ユニバーサルマナー講師の薄葉です。今回はお届けするのはユニバーサルマナー対談。社会で活躍する障害のある方との対話を通じて、多様性をお伝えします。また、ゲストのライフストーリーを追体験しながら、ユニバーサルマナーの必要性について一緒に考えていただければうれしく思います。

◇第1回記事
辻さんと聴導犬のノエル①「聴覚特別支援学校の話」
◇第2回記事
辻さんと聴導犬のノエル②「学校での情報保障と聴導犬との出会い」

インタビューアー:薄葉ゆきえ    
 【画像】薄葉プロフィール写真_バストアップ (2)
株式会社ミライロ ビジネスソリューション部 ユニバーサルマナーチーム 講師
薄葉ゆきえ
…聴覚障害のある講師として「外見からは見えにくい障害」に対する理解推進を目指し、全国の企業・自治体・学校などで講演を行う。


インタビュイー:辻 海里さん
辻さんの顔

――前回は聴導犬のサスケ、ノエルとの出会い、バリアフリートイレや補助犬用トイレの設置について伺いました。
写真 ノエルが波打ち際にいる様子

薄葉
少し広めの一般のお手洗いもあると思うのですが、そうした場所は利用できないのでしょうか?

辻さん
広めの個室トイレもありますが、利用できるかどうかではなく、できれば利用したくないんですよ……。

薄葉
それはどうしてでしょうか?

辻さん
薄葉さんは男性用のトイレを使用したことがないでしょうから、おそらくご存じないのだと思いますが、男性用トイレの個室は床が汚い場所が多いのですよ……。女性と違って、男性は立った状態で用を足しますから、床に尿が飛び散っていて、そうした場所に聴導犬を連れて行きたくないんです。

薄葉
辻さんは男性用のお手洗いを使用されますものね。男女共用のお手洗い……も、男性が利用しますね……。

辻さん
そうなんです。最近の若い男性は座って用を足す人も増えてきましたが、まだまだ立った状態で床を汚す男性は多いです。便座も上げずに立った状態で用を足す人や中には使用した後に水を流さない人もいます。男性用トイレは薄葉さんが想像する以上に汚い状態なんです。

薄葉
ちょっとしたカルチャーショックです……。最近ではLGBTQの方も気兼ねなく利用できる『誰でもトイレ』が増えてきましたが、そうしたお手洗いでも同じような状態なのでしょうか?

◇誰でもトイレについて
 ブログ「さようなら、多目的(多機能)トイレ。こんにちは、個別機能を備えたトイレ。」


辻さん
はい。だって、そこだって共用トイレなわけですから(笑)僕からすれば、現状『誰でもトイレ』は『誰でも使いたいお手洗い』ではないですね。

薄葉
補助犬が一般のトイレを使用できるようになるためには、個室の広さだけでなく、衛生面での改善も必要ということですね?トイレを使用する人がそうした配慮ができるかどうかもユニバーサルマナーですね。トイレを清掃する方にとっても、お手洗いをきれいに使っててもらえるのはうれしいことですよね。

辻さん
はい、トイレのユニバーサルマナーは大事だと思います。

薄葉
率直にお話しくださって、ありがとうございました。ところで、辻さんは海外旅行に聴導犬を同伴した経験もあるそうですが、海外でのエピソードなどはありますか?

辻さん
はい。海外の人の補助犬に対する接し方は非常にスマートでした。例えば、アメリカに行った時のことです。「聴導犬に挨拶したいから、触ってもいい?」と尋ねてくれる人が多かったです。日本の場合には僕に何も聞かずに勝手に触ってくる人が多いです。僕、これって「セクハラの一種では?」っていつも思うんですよ(笑)

薄葉
確かに補助犬や補助犬ユーザーに許可なく触るのは、そうしたハラスメントの一種と捉えられても仕方がないですね。

辻さん
はい。しかも、海外の方の場合は「Hey, Good.」と聴導犬の頭に軽く触れる程度でさらっと挨拶を終えてくれるのに、日本人の場合にはずっと触り続ける方が多いんですよ。基本的に補助犬が仕事中には構わないでほしいです。犬の性格によっては触られることで仕事中であることを忘れてしまうことがありますし、犬にだって感情があります。苦手な属性の人から触られると集中力が途切れてしまうこともありますから。

薄葉
犬によっては苦手な属性の人がいるんですね?

辻さん
当然ですよ、犬にだって好き嫌いはあります。例えば、サスケはきれいなお姉さんが好きだったので女性が触っても不機嫌にならない子でしたが、子どもや男性に触られるのは苦手な性格でした。ノエルは子どもがすごく苦手ですね。

薄葉
補助犬や補助犬ユーザーの立場に立って考える、周囲の人のユニバーサルマナーも大事ですね。

辻さん
はい、ご理解とご協力をお願いできればと。

薄葉
聴導犬パートナーとしての辻さんの活動の目標などはありますか?

辻さん
聴導犬パートナーとしての僕の目標は、聴導犬の認知度を上げること、聴導犬について知らないのは聴者だけではありません。聴覚障害のある人でも聴導犬を知らない人は多いんです。また同時に聴導犬について正しい知識を持ってもらうこと、社会から同行拒否をなくしたいですね。

薄葉
素晴らしい目標ですね。今後、補助犬ユーザーを目指す方へ何かメッセージはありますか?

辻さん
補助犬はユーザーとの連携が最も重要です。補助犬として受けた訓練の成果が崩れてしまうのはユーザーの責任が大きいんです。そもそも、犬が補助犬として優秀であっても、ユーザーが正しく管理できないと、試験には受かりません。マナーを守っていないユーザーも中にはいます。マナーを守る補助犬ユーザーが増えてくれたらうれしいです。

薄葉
ありがとうございます。先ほど海外のお話が出ましたが、辻さんは海外へ渡航する機会は多いのでしょうか?

辻さん
はい、ドッグトレーナーの専門学校時代にはイギリスへ研修に行きました。孤児院の支援活動もしていて、モンゴルにも3回ほど行きました。先ほどお話したアメリカ旅行は留学のための下見でした。それと僕は性適合手術をタイで受けたので、バンコクにも行ったことがあります。



第3回はここまでです。
最終回は「性自認のカミングアウト」と「性別適合手術」についてお聞きします。