障害のある方がどのように生活をしているのか、生活の中でどのような工夫をしているのか、疑問を持ったことがあるかもしれません。そこで「日常生活」をテーマに、ユニバーサルマナー検定の講師に質問をぶつけてみました。
今回は聴覚障害のある講師・薄葉に、外出についての話を聞きます!
※第1回記事【聴覚障害者のライフハック】チャイムやアラームにどうやって気づくの?
※第2回記事【聴覚障害者のライフハック】火災報知器にはどうやって気づくの?
目次
・街中での困りごとは?
・人工内耳を使うようになって
・皆にとって必要なユニバーサルマナー
・“見た目でわかりにくい”は、耳マークで解決
・店員さんが筆談できない時は?
・知ってる?とっても便利な電話リレーサービス
・最後に
話す人・聞く人
話す人
株式会社ミライロ ビジネスソリューション部 ユニバーサルマナーチーム 講師
薄葉ゆきえ
…聴覚障害のある講師として、「外見からは見えにくい障害」に対する理解を中心に、全国の企業・自治体・学校などで講演を行う。
聞く人
株式会社ミライロ 経営企画部 広報担当
神保さほり
街中での困りごとは?
前回は聴覚障害のある薄葉さんの日常生活や災害への備えについてインタビューさせていただきました。今回は、外出時のエピソードなどをお聞きしていきます。
はい、今回もよろしくお願いします。
早速なんですが、薄葉さんはインドア派ですか?アウトドア派ですか?
私は自宅で過ごすのも好きですが、どちらかというと、外出するのが好きなアウトドア派です。
というと、山とか?海とか?
山や海などのレジャーも好きですが、街派です(笑)。
街派ですか(笑) 。街中には、たくさんの音の情報が溢れていますし、外出すると人とも関わり合いますから、コミュニケーションをとる際の工夫も必要ですよね。外出をする際にどのような困りごとがありますか?
そうですね。例えば、街中を歩いている時に背後から接近する車や自転車のベルの音が聞こえないと、接近に気が付くのが遅れてヒヤっとすることがありますね。最近は特にエンジン音が制御された電気自動車も増えているので、なおさら接近する音は聞こえにくいと感じます。
なるほど。街中の雑踏の中では人の話し声やお店から流れてくるアナウンス、BGMなどの音が溢れていますから、車の走行音や自転車のベルの音は騒音に紛れてしまって聞こえにくそうですね。
そうなんです!実は最近人工内耳の手術を受けまして、全く聞こえない状態から聞こえにくい状態の難聴者に戻ったのですが、それでも外出時の街中の音は聞き取りにくかったりします。
人工内耳でも音が完全に聞こえるわけではないんですね。
はい。人工内耳のおかげでマスクをしている人と会話ができるようになったのは良かったのですが、誰かと一緒に外出して話しながら歩いていると、街中には他の音がたくさんあって、話し声が聞こえにくいんです 。
人工内耳を使うようになって
先ほどのお話にもありましたが、薄葉さんは、今は人工内耳を装着していて、聞こえない中途失聴者から聞こえにくい難聴者になったのですよね。
はい。そうなんです。人工内耳を装着するようになってまだ半年なので、もう少し時間が経てば今よりも聞こえるようになるそうなんですが、そういった事情もあって、街中の騒音の中での会話は聞こえにくくて苦労しています。
人工内耳は補聴器と同じような聞こえ方なのでしょうか?
いえ、かなり違いますね。補聴器は内蔵されているマイクで拾った音を大きく増幅して聞き取る機械ですが、人工内耳は拾った音を電気信号に変えて耳の神経を刺激して音を脳に送る機械なので、機械音のような聞こえ方をしています。音自体は30デシベルくらい聞こえているのですが、逆にすべての音を拾ってしまうので、聞き取りにくさがあったりします。
そうなんですね。では、静かな環境ではよく聞こえていても、街中の騒音の中では困りごともいろいろありそうですね。
はい。それとある程度聞き取れているとお店の店員さんと会話ができてしまうので、会話の途中で聞き取れなかった時に、聞こえないことを伝えても怪訝な表情をされたりします(笑)。
なるほど(笑)。たしかに、さっきまでスムーズに会話していた人から急に聴覚障害があることを伝えられたら、店員さんは戸惑ってしまうかもしれませんね。
そうなんです。“え?どういうこと?”っていう感じになります(笑)。
聞こえにくいとそういった困りごともあるんですね。店員さんはどのように対応してくださるのでしょうか?
皆にとって必要なユニバーサルマナー
こちらからお願いすれば、聞き取りにくかった所を書いてくださいます。そのため、外出時は常に小さな筆談ボードを持ち歩くようにしています。筆談ボードがあれば、すぐに筆談していただけますから。嬉しいことに、最近は筆談ボードを設置してくれているお店が増えました。
聞き取れない場合は書いて伝えることもできますもんね!
また、店員さんも聴覚障害に理解のある方が増えて、すぐにご自分のメモ帳に筆談してくださったりします。混雑時など、筆談の手間をおかけするのが申し訳ない時もあるので、マスクを外していただけたら聞き取りやすくなるのですが、さすがに今のご時世ではマスクを外してほしいとは言いにくくて...。
そうですよね…。特に飲食店の店員さんの場合などは、マスクを外して接客するのは難しそうですね。
はい。配慮をお願いすることは多いのですが、聞こえにくいからといって一方的にこちらの要望だけを押し付けるようなことはしたくないので。
そうですよね。障害のある方も相手の立場に立って考えることは大切ですよね。
はい、ユニバーサルマナーの基本だと思います。双方にとっての最適解は何かをいつも考えています。それと自分1人にとっては良くても、その後来店するかもしれない別の聴覚障害のある方のことも考えなくてはいけません。その店員さんから聴覚障害のある方に対して苦手意識を持たれてしまっては良くないので…。
“見た目でわかりにくい”は、耳マークで解決
なるほど。そうしたことも考えて生活しているのですね。ちなみに、聴覚障害のある方は、外見を見て障害があることがわかりにくいですよね?そうなると、対応する方の難易度が上がりそうですが、そうした点は何か工夫をされていますか?
はい。外出時は聴覚障害があることと、お願いしたいコミュニケーション方法を記載した耳マークを携行するようにしています。耳マークはカード状のものもありますし、交通系のICカードや会員証などに貼って使うシール状のものもあります。
たしかに耳マークを提示してくれたら、その方が聴覚障害のある方だとわかって店員さんも対応がしやすくなりますね!
そうですね。特に聴覚障害だけでなく、発話がしにくい言語障害がある方の場合には、必要なコミュニケーション方法を予め書いてある耳マークを使用することは、コミュニケーション上とても有効だと感じます。
耳マークは聴覚障害のある方が使うだけでなく、お店側がコミュニケーションの配慮を提供する場合にも使いますよね?そうしたお店はよく見かけるのでしょうか?
はい。最近では、コンビニのレジなどでよく見かけますよ。また、お店ではないのですが、銀行や役所の窓口、企業の受付でもよく見かけるようになりました。聴覚障害のある方が配慮をお願いしやすくなるので、耳マークを見えやすい場所に掲示していただけると、とても助かります。
耳マークを掲示してもらえると双方のコミュニケーションがスムーズになりそうですね!他にはいかがでしょうか?
店員さんが筆談できない時は?
はい。例えば、美容院で髪の毛を染めている時、美容師さんは手袋に薬剤が付着して筆談できない状況になります。そうした場合、話した内容を文字で表示するスマートフォンのアプリで会話することもあります。
たしかに、お仕事によってはどうしても筆談できない状況は起こりますから、そうしたシチュエーションでは便利ですね!
はい。それと最近では、紙の雑誌ではなく、雑誌が読めるアプリをインストールしたタブレットを用意している美容院も増えてきましたよね。私が通っている美容院では、そうしたタブレットに音声情報を文字化する無料アプリがインストールされていて、会話の際に使用してくれます。
わあ、素晴らしいユニバーサルマナーですね!無料で使いやすいという点も大事なポイントですね。
はい。こうしたアプリをもっと多くの方に知ってもらえたらなって、思います。
知ってる?とっても便利な電話リレーサービス
他に何か困りごとはありますか?
はい。例えば、レストランを予約する時に予約の手段が電話しかないお店がありますが、そうしたお店に電話できなくて以前はとても困っていました…。
人工内耳を装着するようになって、今は電話ができるようになったということでしょうか?
いえいえ。もしかしたら、今後電話ができるようになるかもしれませんが、今はまだ電話は難しくて…。そうした場合には、電話リレーサービスを使って予約しています。
そうなんですね。電話リレーサービスとはどのようなサービスなんでしょうか?
電話リレーサービスは、通訳オペレーターを介して電話するシステムです。文字と手話を選べるので、店員さんの話の内容を文字で見たい人はチャットで、手話通訳を見たい場合にはテレビ電話を使用します。以前は電話でしか予約できないお店は予約を諦めていたのですが、2021年の7月から電話リレーサービスがインフラ化されて使えるようになったので、とても助かっています。
そんな便利な解決策ができたのですね!
聴覚障害のある方は、ほとんどの方が電話リレーサービスを使用されているのでしょうか?
いえ。始まったばかりのサービスなので、サービスを知らない方はまだ多いです。
それは残念ですね。電話リレーサービスについても認知が広まると良いですね!
はい。電話リレーサービスは一般の電話番号だけでなく、119や110にもかけることができますから、1人でも多くの方に知っていただき、電話が難しい方に使っていただきたいです。通信技術が進歩して、便利なアプリやサービスが社会に増えたとしても、必要な人に情報が届いていないのはもったいないです。必要な人達に必要な情報が行き渡るように、私達も情報発信をがんばりましょう(笑)。
そうですね!がんばりましょう(笑)。薄葉さん、今日もいろいろなお話をお伺いできて、大変参考になりました。ありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました!
最後に
今回は、聴覚障害のある薄葉の外出について、ご紹介しました。いかがでした
か?
実際に話を聞いてみないとわからなかった、たくさんの工夫がされていましたね。特に最近は技術が進歩し、さまざまな機械で聴覚障害のある方の生活がより便利になっていると感じました。
ただ一方で「必要な情報が必要な人に届いていない」という薄葉の言葉も印象的でした。
この記事が皆さまと聴覚障害のある方を繋ぐきっかけになれば、大変嬉しく思います。次回は薄葉のライフハック仕事編です。どうぞ、お楽しみに!