こんにちは、ユニバーサルマナー検定講師の薄葉です。聴覚障害のある講師として全国各地の企業や自治体、教育機関で研修や講演を担当しています。

 

はじめに


ユニバーサルマナー検定では、障害のある人が社会生活を営む上で『環境・意識・情報』 3つのバリア(社会的障壁)が存在しているとお伝えしています。

本記事では『障害がない人の意識のバリア』と『社会生活を営む上で発生している、障害のある人にとっての意識のバリア』について取り上げます。

目次


無関心と過剰とは?
困っていることを伝えられない人
セルフアドボカシーとは?
伝えられない?伝えたくない?
申し出がないことによって引き起こされる『無関心と過剰』


無関心と過剰とは?


私は普段、企業や自治体、教育機関からご依頼をいただき、ユニバーサルマナー検定の講義や講演を担当しています。ユニバーサルマナー検定では、障害者や高齢者、性的少数者をはじめとする社会的マイノリティと向き合うためのマインドやアクションをお伝えしています。

社会的マイノリティと接する機会がないと 「わからない」とか「知らない」という不安な気持ちが芽生えてしまいがちです。こうした要因から、社会的マイノリティに対し距離を置いてしまうことを『無関心』。その一方で、社会的マイノリティに接する際に気負い過ぎてしまい、本人が求めていない対応(お節介)までしてしまう 『過剰』反応も起きていて、この心理的な二極化現象を『無関心と過剰』と呼んでいます。

実はこの現象は、社会的マイノリティの側にも起こっているように思います。

 

困っていることを伝えられない人


皆さんはこう感じたことはありませんか?

例えば、障害者に対して
「困っているなら、なぜ自分から積極的に助けを求めないのだろう?」と。

以前、ユニバーサルマナー検定3級をご受講いただいた方からのご意見が印象的でした。「もちろん、困っている人がいたら『お手伝いできることはありますか?』とお声かけはします。ただ、障害者や高齢者であっても、困っているなら受け身ではなく、自分から助けを求める姿勢も大事なのでは?」と。

ここで立ち止まって考えてみましょう。
例えば、子どもや認知症の高齢者、知的障害のある人や言語障害のある人など、その特性によって自分から周囲の人に助けを求めることが難しい人もいます

 

 

セルフアドボカシーとは?


「生活上、何らかの困難を感じている人が、周囲の人に助けを求めたり、自分が必要とする合理的配慮を伝えたりすること」『セルフアドボカシー』と言います。このセルフアドボカシーのスキルは、障害者だけではなく、女性や性的少数者、高齢者など社会的なマイノリティが社会生活を営むうえで必要なスキルです。障害者を例に挙げてみましょう。

現状の障害者差別解消法や障害者雇用法では、合理的配慮について『本人が必要としている配慮』であることが前提条件として規定されています。

そのため、まずは本人からどんな配慮が必要なのかを申し出てもらう必要があります。ただし、ここで課題となるのは、自分からはどのような配慮が必要なのか説明する必要性を十分に理解していない人や物理的に本人から申し出ることが難しい人がいるという点です。

特性によって申し出ができない人がいる現状を鑑みると、代弁者による『アドボカシー』も必要になってきます。アドボカシーの意味は多岐にわたりますが、狭義の意味では
「自分の要求を表明できない場合に、援助者がそれを代弁すること」を意味します。

注意点としては、援助者が主体ではないということ、つまり、主体はあくまで障害者本人であり、本人の意思表明を援助者が可能な限り支援する姿勢が大切という点です。

現在、改定が進められている障害者差別解消法をはじめとする障害者に関わる諸法律においては特に、意思表明や意思疎通が困難な人に対するアドボカシーについても盛り込み、社会からの理解を求める必要があるように思います。

 

 

伝えられない?伝えたくない?


ただし、物理的に本人から合理的配慮を申し出ることが可能であっても、申し出ることができない、申し出たくないという人もいます。なぜでしょうか?

私の経験上、大きく分けて2つのパターンがあるように思います。

①適切なセルフアドボカシーのスキルを習得していない。
②恐怖感や心理的な抵抗感から申し出を行うことができない、したくない。

まず、①のケースです。
例えば、働く障害者を例に挙げて考えてみましょう。

雇用の分野における障害者と非障害者との均等な機会もしくは待遇を確保するために、また、障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置として、障害者雇用促進法※においては、障害のある社員に対し合理的配慮を行うことは義務化されています。

障害者雇用促進法(厚生労働省)

ただし、この法律においても、適切な合理的配慮を提供するためには、合理的配慮が必要な社員本人から申し出てもらうことが必要になります。本人から合理的配慮の申し出がないと、企業で活躍してもらうために適切な配慮を提供したい意思が企業側にあったとしても配慮を行うことができなくなってしまうのです。

『適切なセルフアドボカシーのスキルを習得していない』と、そもそも働く上で必要な合理的配慮を周囲の人へ伝えることが難しくなります。
セルフアドボカシーができない背景としては
・障害受容ができていない
・自分自身の社会的障壁について十分に理解していない
などの事情もあるように思います。

◇ブログ「聴覚障害者はどんな夢をみるの?」にて、障害受容についてお伝えしています。

まずは、障害者自身の自己理解とともに、障害のメタ認知をする(自分自身から見た障害と周囲の人から見た障害を俯瞰し、総合的に理解する)ことが必要です。
そして、伝わりやすい説明を行うスキルの習得、場合によっては、その機会を提供する研修の場やロールモデルが必要になります。 

 

 

申し出がないことによって引き起こされる『無関心と過剰』


本人から合理的配慮の申し出がないと「困っていないのだろう」という誤解が発生します。時には、障害者の困りごとの矮小化が起こり、周囲の人の『無関心』へと繋がる懸念もあります。

反対に、本人が求めていない配慮まで提供してしまうという『過剰』に繋がることもあり得ます。何かしら困ってそうだけど、本人から申し出がない社員に対し、医学的知識がない周囲の人が「○○障害があるに違いない」と勝手に判断し、良かれと思って不適切な配慮を提供してしまえば、トラブルになってしまう可能性が高いです。

よって、障害のある人が働く上で『自分に必要な合理的配慮を周囲の人に適切に伝える』ことは不可欠だと考えます。


前半はここまでです。
後半は
・申し出を『諦める』理由とは?
・反動としての『対立や衝突』
・目指すのは、戦略的なセルフアドボカシー
・最後に
をお伝えします!

後編はこちら