こんにちは、ユニバーサルマナー検定講師の薄葉です。聴覚障害のある講師として全国各地の企業や自治体、教育機関で研修や講演を担当しています。

前編では
・無関心と過剰とは?
・困っていることを伝えられない人
・セルフアドボカシーとは?
・伝えられない?伝えたくない?
・申し出がないことによって引き起こされる『無関心と過剰』
をお伝えしました!

前編はこちら



目次


申し出を『諦める』理由とは?
反動としての『対立や衝突』
目指すのは、戦略的なセルフアドボカシー
最後に


申し出を『諦める』理由とは?


次に、②の『恐怖感や心理的な抵抗感から申し出を行うことができない、したくない』ケースについて考えてみましょう。

合理的配慮の申し出をしたら「人権主張をしていると思われ、働く上で不利益を被るのではないか?」という不安な気持ちから、なかなか自発的には言い出せない人もいます。

多くの障害者は、生まれた時から、または中途障害者であっても、障害者として生きてきた長い時間とそれに伴う経験があります。障害者として過ごしてきた人は、多種多様なネガティブ経験を蓄積させていることが多いように思います。

例えば、困っている時に周囲の人へ助けを求めても拒絶されたり、見て見ぬふりをされたり……。逆に、声を上げても、過重ではないにも関わらず『過重な負担』であると突っぱねられたり、『過度な人権主張』であると叩かれた経験を有しています。

とても残念なケースとしては、障害者の 『人間性の問題』とされ、人格まで否定されてしまうこともあります。

こうした負の体験(スティグマ)が蓄積され、日常的に抑圧を受け続けると、声を上げることが怖くなったり、伝えても無駄という諦めの境地に陥ってしまい、合理的配慮を申し出ることが次第に困難になります。諦めが常態化してしまうと、本人のモチベーションが低下し、最終的には離職に繋がる懸念もあります。

この当事者側の無関心に当たる『諦め』を起こさないために、周囲の方は障害者の意見を単なる『人権主張』と一蹴することなく、障害者の生活背景や事情を理解していただき、適切にコミュニケーションをとり、誠実に向き合っていただけたらと願います。

 

 

反動としての『対立や衝突』


また、一方で周囲の人から理解を得られないことに対する反動として、『過剰』に当たる『周囲とのコンフリクト(対立や衝突)』も起きてしまっています。

例えば、我慢に我慢を重ねた結果、伝える際に感情的になってしまったり、憤慨した挙句、周囲の人と一切コミュニケーションを取らなくなるような断絶が起こります。

この点は障害者側にも周囲の人に対する理解が必要です。障害のない人には、障害者の生活背景や事情を理解する機会が少ないことを常に念頭に置き、『伝わる』セルフアドボカシーを意識的に実践する必要があります。

ユニバーサルマナー検定では、障害者や高齢者をはじめとする社会的マイノリティに対する『無関心でもなければ、過剰でもない中間のさりげない配慮』の必要性を伝えています。この考え方を応用して、障害者の側にも『諦めでもなく、衝突でもない中間の効果的な合理的配慮の伝え方』が当てはまるのではと考えます。

言葉で言うのは容易く、実践は難しいというご意見はあるかもしれません。私自身が障害のある当事者として日々の生活の中でトライ&エラーを繰り返す身でもあります。このブログを読んでくださっている読者の皆さまのお役に立てるように、私自身の知見を今後も精力的に発信できればと考えています。

 

 

目指すのは、戦略的なセルフアドボカシー


ユニバーサルデザインの観点で考えると、職場におけるセルフアドボカシーは社会的マイノリティの権利が回復されること自体がゴールではありません。社会的マイノリティの社会的障壁が解消され、その結果、周囲の人も働きやすい職場環境になることまでを含みます。

障害者の環境整備が社内のDEI推進に向かう方向に狙いを定めて、戦略的にセルフアドボカシーを行ってほしいと願います。

DEIやSDGsの認知向上によって、社会的マイノリティを企業の戦力として見なす機運は醸成されつつありますが、残念ながら、まだまだ社会全体へ浸透しているとは言い難く、ゴールまでの道のりは遠い現状です。

決して平たんな道のりではありませんが、短期的に試行して理解してもらえないからといって投げやりになることなく、長期的視点で戦略的に取り組んでいただければと思います。私自身も諦めることなく、コツコツと取り組んでいければと考えています。

ブログ「D&IからDEI」へ

 

最後に


最後までお読みいただいた皆さま、いかがでしたか。

今回は障害者側にも起きている『無関心と過剰』を『諦めと周囲とのコンフリクト(対立や衝突)』に置き換えてお伝えしました。今日お伝えしたことは、私の過去、現在、そして未来の話でもあります。私はユニバーサルデザインのコンサルティングファームで働く、ユニバーサルマナーの講師です。とはいえ、一介の会社員であることには変わりありません。

日々の業務の中でさまざまな課題に直面しながら、それらを解消し、そして、可能であれば、バリアをバリュー(価値)に変換することを目指して働いています。今回の記事は自分自身への励ましと自戒を込めて執筆しました。

DEIが社会に広まり始めたとはいえ、まだまだゴールへの道のりは遠く、企業内の取り組み状況は千差万別だと思います。本日お伝えした内容が、皆さまが社会的マイノリティの方々と協働する際の一助となりましたら、大変うれしく思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次の記事でお会いしましょう!