ミライロでユニバーサルマナー検定の運営に携わり、義肢装具士の資格も持つ社員に、医療系の職業とユニバーサルマナーの関連について話を聞きました。
義肢装具士の業務内容と経歴を簡単に教えていただけますか?
義肢装具士は国家資格です。
医師の指示に基づき、患者さんとコミュニケーションを取りながら型を取ります。その後職人がつくった義肢や装具を患者さんに装着し、義肢装具士が確認と細かな修正を行います。完成したあとも、患者さん(義肢装具ユーザーさん)へ使い方の指導だったりメンテナンスのやりとりを行ったりします。
※義肢…四肢の一部を失った人が使う人工の手足
※装具…四肢・体幹の機能障害軽減のために装着する器具
私はずっと義肢装具士として働いていたわけではなく、教師の業務と両立していました。大学で専門知識を学んだあと学校で教員として採用され、教える傍ら義肢装具ユーザーさんとかかわる業務を行っていました。
※義肢装具士の詳細
厚生労働省『職業情報提供サイト 義肢装具士』
公益社団法人日本義肢装具士協会『義肢装具士とは』
義肢装具士を目指された背景を教えてください。
陸上競技を長年行なっていたこともあって、スポーツトレーナーや理学療法士に興味を持っていました。しかしある日、義足を付けてオリンピックで走る選手をテレビで見て惹かれ、義肢装具士への道を目指すようになりました。
パラリンピックではなくオリンピックであったこと、義足をつけて風のように走る姿が記憶に残っています。
実際に働いてみてどうでしたか?
いざ就職してみると競技目的で義足を必要とする患者さんは少なく、日常生活で義足を付けられる患者さんの方が多かったです。「リハビリすれば走れるようになりますよ」と伝えたこともありましたが「そこまではいいかな……まずは歩けるようになりたい」とおっしゃられることもありました。
大きな目標があるから頑張れる方もいますし、先のことより目の前のことを一歩ずつクリアしたい方もいます。義肢装具ユーザーさんとかかわる中で、ニーズはさまざまだと気付きました。
コミュニケーションは大切だとあらためて感じましたね。
仕事する中で悩んだことはありますか?
さまざまな状況の義肢装具ユーザーさんとのコミュニケーションに悩んだ経験があります。
学生時代には多くの疾患について教科書で学びましたし、義肢装具ユーザーさんと実習でかかわることはありましたが、実際の現場では障害が重複していたり合併症があったり、加齢により制約があったりする方と接することが多くありました。
例えば、糖尿病による切断患者さんは視力が低下していることがあります。脳卒中で片麻痺の患者さんは言語や認知機能に影響を受けることもあります。障害が重複している方や合併症が併発している方に対してどう声をかけたらよいのか、どう説明すればよいのか分からず、うまくコミュニケーションが取れないこともありました。
「代わりに書いていいんだっけ……」「どう声をかけたらいいんだっけ……」と悩みましたね。適合状態を確認したいときも、患者さんに伝わっているか患者さんの伝えたいことを自分が理解できているか不安でした。
また、教える立場にあった際にも、学生へコミュニケーションの重要性を伝えることはありましたが、私のときと同様に、学生時代に実習以外で義肢装具ユーザーさんと出会う機会はあまりありません。学生のうちは実践的なコミュニケーションの経験を積みづらい状況がありましたね。どう伝えたらいいのか悩んで過ごす日々でした。
ユニバーサルマナー検定を受講し一番心に残ったことを教えてください。
『100点満点を目指さない』というフレーズが印象的でした。もちろん、医療職として行う医行為は100点満点を目指さなければなりませんが、街中で困っている方や患者さんへのお声かけにおいては「勉強したから間違えちゃいけない!」とプレッシャーを感じて行動が遅れてしまうことがありました。
実際には義肢装具ユーザーさんとの人間関係を築くためには、柔軟であることも重要だと気付きました。『病気を診ずして病人を診よ』の考え方に通ずるものがあり、人へ歩み寄る際の前提として必要だなと思いました。
時代とともに技術が進歩し、義肢装具の製作でも機械化が進む部分もありますが、こうしたコミュニケーションはAIには代替できない、人と人だからこそできる部分ですね。
そのほかにもユニバーサルマナー検定では、コミュニケーションに必要な心構えや声かけの方法を学びました。当時の自分や学生へ伝えたいです。
義肢装具士を目指す方(患者さんと関わりのある方)へメッセージをいただけますか?
学生は皆、必要な知識や技術を学び資格を取得しますが、それを活かせるかどうかの根幹には『ホスピタリティ』があると考えています。
専門知識だけでなく、患者さんや利用者さんとの信頼関係を築くための心構えやかかわり方を学んでおくことがオススメです。それらを現場に出る前に知っておくと、より良いと思います。ぜひユニバーサルマナー検定を受講してみてください!