ユニバーサルマナー講師の薄葉です。
聴覚障害のある講師として、全国各地の様々な企業、自治体、教育機関などで講義を担当しています。

先月17日で阪神・淡路大震災から26年が経ちました。
そのため1月17日は、阪神・淡路大震災を偲び「防災とボランティアの日」に制定されています。

今回は、「コロナ禍における、聴覚障害がある人の避難所での困りごと」についてお伝えします。
新型コロナウィルスのワクチン接種が開始されたとはいえ、まだまだ予断を許さない時世において、自然災害が発生し、聴覚障害のある人達が避難所を利用することがあれば、どのような困りごとが発生するのか?今日は皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

画像 避難しているイラスト

耳が聴こえない・聴こえづらい人の困りごとは3つ

コロナ禍における避難所の状況について考える前にまずは、聴覚障害のある人の普段の困りごとについて考えてみましょう。
困りごとは大きく分けると、下記の3つになります。

①音声情報が取得できない
②コミュニケーションに困難が伴う
③聴こえない・聴こえづらいことが外見からはわからない

①音声情報が取得できない

災害発生時のサイレンの音や避難誘導のアナウンスなど、音の情報が取得できません。
音の情報だけだと異変に気づくことができず、逃げ遅れてしまうかもしれません。

②コミュニケーションに困難が伴う

聴覚障害のある人の中には、発声に困難が伴う人も含まれます。
自分の言いたいことが伝わらない。そして、聴こえない、聴こえづらいと相手の話が聞き取れません。
特に今は、マスク着用が必須の状況です。
もともとは口元が読み取れる人も、マスクを着用している相手とは会話ができなくなります。

画像 マスクのせいで口の動きが読めないイラスト

③聴こえない・聴こえづらいことが外見からはわからない

聴覚障害のある人は、パッと見ても外見からは、耳が聴こえない、聴こえづらいことがわかりません。
耳が聴こえていると思われ話しかけられますが、声をかけられたことに気づけません。
そして、無視をされたと気分を害した相手から、無礼な人だと誤解されることもあります。

コロナ禍で大規模な自然災害が発生したら?

こうした困りごとのある聴こえない・聴こえづらい人が暮らす地域で、大規模な自然災害が発生したら、どのようなことが起こるのでしょうか?

私自身は在宅避難派ですが、やむを得ない事情によって避難所生活を選択せざるを得ない場合もあります。
一緒に考えてみましょう。

先ほどお伝えした困りごとに、上記の①②③を当てはめてみます。

 

①音声情報が取得できない

館内放送や、マスクを着用している避難所の係員のアナウンス内容が聞き取れないため、音声情報を入手できません。
過去の災害発生時には、仮設トイレの設置に関する情報や、水・食料配給の通知が聴覚障害のある人に届かなかったという課題が発生しました。

課題解決の方法として「多種多様な伝達手段を用意する」ことが大事ではないでしょうか。
最近では、装着型の振動式デバイスによる通知や、電光ボードに書いて情報を周知するといった避難所も増えてきました。
紙やホワイトボードに書いて情報を文字にするだけでも、より多くの人に情報を届けられます。

②コミュニケーションに困難が伴う

マスクを着用している人達とのコミュニケーションが取りづらいことで孤立したり、情報取得に時差が生まれたりします。
避難所では誰もが不安を抱えて生活をしています。
聴こえる人同士であれば、近隣の人達と声を掛け合い、お互いに励まし合って困難を乗り越えることも多いのではないでしょうか。
コミュニケーションの取りづらさによって、集団から孤立しがちな聴覚障害のある人は一層の不安を抱えています。

「食料の配給が始まったみたいですよ」
「何かお手伝いできることはありますか?」

皆さんが書いて伝えてくれるだけで、聴覚障害のある人に大きな安心を提供できます。
もちろん、耳が聞こえにくい高齢者にとっても同じです。

紙やペンを用いた筆談方法の他にも、認識した音声を文字化する便利なアプリやデバイスもありますから、ぜひ使ってみてください。
マスク着用時は口元だけではなく、表情も見えづらくなっていますから、皆さんの温かいお気持ちが伝わりやすくなるように、平時よりも丁寧なコミュニケーションを心がけていただけると嬉しく思います。

③聴こえない・聴こえづらいことが外見からはわからない

「聴覚障害のある人をサポートしたい気持ちはあるのだけど、誰が聴こえない人なのか、見た目ではわからないのです」
皆様からは、このような困惑のお声が聞こえてきそうですね。

聴覚障害のある人たちも、聴覚障害は外見から見えづらい障害であることは理解しています。
おそらく、避難所のような、皆様から積極的な声かけをお願いしたい場においては、「耳マーク」や「ヘルプマーク」を活用し、自分が聴こえない・聴こえづらいことを情報開示したり、声かけをしてほしい要望を伝える工夫をしている人が多いです。

耳マークのイラスト

 

 

 

 




◇耳マーク

ヘルプマーク
◇ヘルプマーク

筆談のイメージ
◇「耳が聴こえませんので、筆談してください」と伝えている様子

耳マークを表示するグッズは、カード、バッチ、バンダナ、シリコンゴム状のブレスレットなど、様々なものがあります。

 

あなたの心づかいが、他の誰かの安全地帯となる

ここまで、コロナ禍における避難所での困りごとについて、皆さんに考えていただきました。

福祉や介護用品の新製品の開発や、ITC(情報通信技術)の飛躍的な進歩などによって、今後は福祉避難所のみならず、一般の避難所であっても、障害のある人達が過ごしやすくなる工夫がなされていくでしょう。

ただ、最後に一番大切なポイントとして、皆様にお伝えしたいのは、設備や建物の改善には費用や時間がかかってしまいます。
すぐに改善するのは難しいですし、また、設備や建物をいかに改善しようとも、最終的には、使用するのは「人」です。

「皆様の心づかいが、他の誰かの安全地帯となる」という点をどうかお心に留め置いてください。
そして、困っている方を見かけたら「何かお手伝いすることはありますか?」とお声かけいただけたら、大変嬉しく思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!

 

 

ご興味のある方は、聴覚障害に関する基礎知識や、手話・筆談などのコミュニケーション方法について学べる「ユニバーサルコミュニケーション研修」の受講をおすすめいたします。

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