知的障害のある息子は、うまく言葉を話すことができません。
それでも、身振り手振りや、知っている言葉を組み合わせて、一生懸命になんとかして伝えようとしてくれます。
そんなわけで、母としても、なんとかして息子の伝えたいことを理解したいのです。
「それってこういうことかな?」「あっ、わかった!あのことだね!」と言ってみるものの、息子はしぶい顔をして首を振ったり、時にはふてくされてしまったり。
なかなかうまくいかない日々を繰り返してきました。
でも、そんな奮闘の日々で、ようやくわたしたちは会話のコツを掴んできました。
息子が伝えたいことは、だいたいこんな内容だとわかりました。
・夢中になっている漫画やゲーム
・好きな漫画や映画
・通っている福祉作業所で起こった出来事
ということは、息子が今どんなことに興味を持っているかをちゃんと知っていると、話している内容がグッと予想しやすくなるのです。
わたしは息子が好きなものや嫌いなものを一緒に見てみたり、福祉作業所のスタッフさんとやり取りしている連絡帳からヒントを得たり、ふとした時に楽しそうな息子をじっと観察しはじめました。
おかげでわたしも、若い人や子どもの間で流行っているものが少しずつわかるようになってきました。
それでついに、息子が伝えたいことが、予想してはっきりとわかる日が来たのです。
その日、作業所から帰ってきた息子は、どうやらご機嫌ななめ。
どうしたのと理由を聞いても、説明ができなくて、説明ができないことにまたイライラして、部屋に閉じこもってしまいました。
「もういやっ」と言って、最近ハマっているゲーム機をちらちら見ていたので、どうやらゲーム機が関係していそうです。
「ゲームでなにかあったの?」と聞くと、息子はうなずきました。
連絡帳を開くと、そこには、お友達とケンカをしてしまったと書いています。
「お友達と、ゲームのことでケンカしたの?」
「うん」
「それで、腹が立ったんだね。明日、仲直りできる?」
こう聞くと、息子はとりあえずわたしに伝わったことで感情がおさまったのか、わかったと言ってくれました。
大人でも、怒っているときにわかってくれないというのは辛いものです。
しかも、説明したくてもできなければ、なおさら。
息子が言いたくても見つからない言葉を、わたしが推理して代わりに拾うと、まず「わかってくれた」ことに安心するのか、息子は喜んだり、穏やかになって話しはじめてくれます。
ここで大切だなと思ったのは、ぜんぶを予想して「こういうことだね」と答えを突きつけてしまうのではなく、あくまでも「これが言いたいの?」「こういうことかな?」と、会話のヒントを見せること。
決めつけられると嫌な気持ちになる人がほとんどなので、それはしないように気をつけています。
ヒントが違っていれば、息子の反応がまた別の手がかりをくれますから。
こんな風に、言葉によるコミュニケーションが難しい人というのはたくさんいます。
だけど、うまく伝わらないことを不安に思って、こっちが勝手に答えを押しつけるのは禁物。
どうすれば会話の糸口が見つかるのか、伝わりやすい工夫があるのか、知っているだけでできることがあります。