こんにちは、ユニバーサルマナー検定講師の薄葉です。講師として全国各地の企業や自治体、教育機関で研修や講演を担当しています。本記事ではユニバーサルマナー講師の体験をお伝えしています。

 

はじめに


ユニバーサルマナー検定や講演で自己紹介する際にお伝えしていますが、私は元々耳が聞こえていて、幼少時から段々と聞こえにくくなり、その後完全に聴力を失いました。そして、約10年間全く聞こえない状態で生活したあと、2022年3月に人工内耳の手術をしました。今日は私の人工内耳手術の体験談をお伝えします。

※今回の記事は当時の日記も参照し執筆しました。あくまで私の体験になりますので、すべての人工内耳装着者に当てはまるわけではない点はご留意ください。

人工内耳とは(一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会)
人工内耳とは、音を聞くために必要な聴覚器官、蝸牛(内耳を形成する器官の一つ)の代わりをしてくれる人工臓器です。キャッチした音を人工的に電気信号に変え、その信号で直接聴神経を刺激する装置です。現在、世界で最も普及している人工臓器と言われています。

※ブログ「中途失聴者の講師が人工内耳を選択した理由」
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後編

 

情報収集(リサーチと経験者へのヒアリング)

 

人工内耳の手術を検討していた私はまず、インターネットや書籍で人工内耳について調べ始めました。人工内耳のメリットやデメリット、適応基準、定評がある医師や病院、人工内耳の機種、手術後のリハビリなどの情報を集め、ある程度情報がまとまった段階で、人工内耳装用者である知人や友人たちに聞き取り調査をすることにしました。

友人たちから参考になる話をたくさん聞けました。例えば、片耳ずつ手術し、現在は両耳に人工内耳を装用している知人からは「可能であれば、両耳同時に手術し、かつ同じメーカーの同じ機種の人工内耳を使用した方が良い」というアドバイスを受けました。片耳ずつ手術をする人は多いけれど、両耳同時に人工内耳を使用し始めた方が、聞こえ方のバランスが良く、手術後のリハビリや人工内耳の調整(マッピング)が楽だということでした。このアドバイスを受け、私は両耳同時に手術を受けることを決めました。

また、別の友人からの「人工内耳の手術は術後の痛みはほとんどない。それと、昔はモヒカンになるくらい広範囲の頭髪を刈り上げなくてはいけなかったけど、今は耳の後ろの部分を数センチ程度剃るくらいで済み、手術したことが外見からは全くわからない状態」という言葉を聞き、仕事柄、術後の傷の治り具合や外見の変化を気にしていた私は、ほっと安堵したものでした。そして友人の言葉通り、実際に術後の身体的ダメージは少なく、退院の翌日(手術の8日後)から仕事に復帰できました。

私は信頼できる友人たちの本音を聞きたかったので直接相談しましたが、聴覚障害の当事者団体や医療機関が実施する人工内耳の勉強会なども定期的に開催されているようです。

さて、この段階で私が得ていた情報と、情報を基に私が想定したことをまとめると以下です。

■適応基準

・両側とも純音聴力検査で90dB以上か、両側とも純音聴力検査で70dB以上かつ補聴器でも会話が難しい人。身体障害者手帳の等級としては、聴覚障害2〜3級が該当する(一部例外あり)。

・下限年齢は1歳(体重が8㎏以上)、上限年齢は特になし(全身麻酔に堪えられることが条件)

■人工内耳の聞こえ方

・人工内耳装用の効果は個人差がある。

・人によっては筆談が不要になったり、1対1のコミュニケーションが可能になる。ゆっくり話す、はっきり話すなどの配慮をしてもらえば、電話ができるようになる人もいる。音楽を楽しめる人もいる。

・人工内耳手術が日本で開始された当初など、人工内耳の適応性が低い人にも手術を進められていたことがあったようだが、最近では人工内耳の適応性が高いと見込まれた人にのみ手術を勧めている印象(専門医から人工内耳の手術を勧められたら、手術を受ける価値は十分にある)。

・その他必要な適性としては、手術後のリハビリや訓練の意欲が高いかどうか。また、家族など周囲の人の励ましやサポートなどが必要な場合もあるため、周囲の人からの支援が受けやすい環境かどうかも重要。

・手術後すぐに聞こえるようになるわけではない。聞こえたとしても、人工的な機械音に近い音が聞こえる。慣れるまで一定の時間が必要。また、適切なリハビリや訓練を根気よく続けることが重要。

・人工内耳装用者の状態と人工内耳の相性が良く、人工内耳の機能を最大限引き出せたとしても、聴者に戻れるわけではない(軽度〜中等度難聴者に戻るイメージ)。

・人工内耳は、主に生活に必要な外界からの音の聞き取りと、音声による会話を可能にすることを目的としている。機能上の制限もあり、どんなに人工内耳が適応しても、聞き取れない音は存在する。

■入院について

・両耳手術の場合、入院期間は1週間程度(※個人差や病院による違いあり)

■手術について

・全身麻酔が必要。

・耳の後ろ側を10㎝ほど切開する。耳の後ろを切開した後、頭蓋骨を削り、電極を内耳に埋め込み、送信機で蓋をする。その後皮膚を元の状態に戻し、切開部を縫合する。

・手術時間は片耳で2~3時間程度(※個人差や病院による違いあり)

・術後の痛みは軽く、鎮痛剤が不要な人もいる(※個人差あり)

■人工内耳の機種について

補聴器のような耳かけ式や、マイクと送信機が一体化された後頭部に取り付ける形状のものがある。また、耳介や内耳の状態が特殊な場合には、頭部や脳幹に埋め込むタイプのものもある。

■人工内耳のデメリット

・ごく稀にめまい・耳鳴りの増大・顔面麻痺・味覚障害が起こる。ただし、一過性であることが多い。

・手術後は頭部を強打するスポーツ(格闘技など)は、避ける必要がある。

・MRI検査は強い磁気が生じるため、手術後にはMRI検査を受けるのに制限が加わる。人工内耳部分に包帯を巻いてカバーする事で検査が可能ではあるが、手術や治療に用いる電気メス、神経刺激器などの使用も制限される。

 

受診~手術日程の決定


2021年12月24日、人工内耳手術で定評のある都内の病院を受診しました。手術後定期的にリハビリや人工内耳の調整(マッピング)に通わなければいけないと聞いていたので、なるべく自宅から通いやすい立地の病院を選び、身体障害者手帳を取得する際に診断書を書いてくれた診断医に紹介状を書いてもらいました。

初診でしたが、事前にリサーチが済んでいたのですぐに手術する決心が固まり、手術日程も翌年2022年3月1日に決定しました。友人たちから聞いた話では一般的に手術まで半年は待つと聞いていたので、わずか2か月後に手術が行われることに驚きを感じました。手術時期に関しては手術室の空き状況や執刀医のスケジュール次第だと思うので、運やタイミングだと思います。当時、コロナ感染の第6波が来ていた時期で、コロナに感染せず無事に手術を受けられるのかが非常に気がかりだった記憶があります。

 

手術までに必要な各種検査


初診からわずか2か月後に人工内耳の手術が迫っており、手術までに受けなくてはいけない各種検査をクリアするため、仕事の合間を縫って病院に通う日々が始まりました。私は講師という仕事柄、また、会社はフレックス制を導入しているためスケジュールの調整が可能でしたが、オフィス勤務の方の場合には、6か月くらいは余裕をもって手術日を決めた方が良いと思います。

■手術までに受ける必要のある検査項目

【聴覚検査】

・純音聴力検査

・語音聴力検査

・聴性脳幹反応(ABR)

・平衡機能検査

術後に生じるめまいについて予測を行うために、内耳内部の前庭神経(身体のバランスをとる神経)や半規管の機能を総合的に調べる必要がある。

・CT検査

中耳、内耳の状態の確認のため。活動性の中耳炎があると、手術は不可のため。

・MRI検査

蝸牛神経の状態や内耳奇形の有無の判定をするため。また、炎症などで蝸牛が塞がっていないかの確認(髄膜炎や中耳炎などで、電極を挿入するスペースがないことがある)が必要なため。

【一般術前検査】

・血液検査

・尿検査

・心電図

・呼吸機能検査

・胸部レントゲン

・新型コロナウィルスPCR検査(入院の3~5日前)※5類移行前の規定

他にも、執刀医とのオリエンテーション、麻酔医の問診、手術後のリハビリや人工内耳の調整(マッピング)を担当する聴覚言語士との事前面談、入院予約、人工内耳の音入れ(手術後に初めて人工内耳を装着する)やリハビリ、人工内耳の調整(マッピング)日程の予約、入院準備(買い物やパッキング)など、年末年始休暇を挟んで2カ月間ですべてを終えなければならず、非常にタイトなスケジュールでした。

 

検査時に感じたこと


各種検査自体は順調に進みましたが、1つ残念に思うことがありました。

当時、私の手術を心配していた母が病院に付き添ってくれたことが何回かあったのですが、ある検査技師が私ではなく、母と会話して検査を進めようとしたことがありました。人工内耳手術は直接命に関わる手術ではありませんが、患者にとってセンシティブなイベントであることには変わりません。特に聴覚障害者は大事な情報が入りにくいという不安もありますし、医療従事者にはインフォームドコンセントを行う義務があります。きちんと患者本人に情報を伝えてほしいと検査技師に伝えました。

人工内耳手術の件数が多い病院だったので、聴覚障害者への対応に慣れているだろうという思い込みがあり、私自身にも甘えや油断があったのだと思います。医療従事者も1人ひとり違っていますので、患者本人から情報保障の申し出を行うことの重要性を再認識しました。

※インフォームドコンセントとは(厚生労働省)
医療行為を受ける前に、医師および看護師から医療行為についてわかりやすく十分な説明を受け、それに対して患者さんは疑問があれば解消し、内容について十分納得した上で、その医療行為に同意すること。医療法第1条の4第2項では「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない」と示されている。

 

前編はここまでです!

次回は
・入院~手術当日
・手術当日(起床~手術前)
・手術当日(手術後~就寝)
・手術後
・退院~人工内耳の音入れ
をお届けします。

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