ユニバーサルマナー検定を受講された、フジテレビアナウンサー・生野陽子さんに受講後の感想についてインタビューをしました。インタビュアーは、検定を運営している株式会社ミライロの代表・垣内俊哉です。
目次
・アナウンサーだけじゃない、幅広い仕事
・気持ちと身体のバランスがとれなかった経験
・「遊ぼうよ!」と手を引くように車いすを押していた小学生時代
・誰かを傷つけない「言葉選び」
・コミュニケーションに関する時代の変化と関わり方
・「いつでも声をかけられる自分がいる」という安心
・多様性を知る意義
今回は生野さんに女性、アナウンサー、そして親の視点をもとにお話をうかがえたらと思っています。よろしくお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
アナウンサーだけじゃない、幅広い仕事
今のお仕事についてあらためて教えていただけますか?
アナウンサーとして、放送では報道やバラエティ番組に出演、情報番組のナレーションも務めています。そして、サステナビリティ推進部という社会貢献活動をする部署での仕事や、アナウンス室では管理職業務にも携わっています。
アナウンサーのお仕事だけでなく、幅広く活動されているんですね。サステナビリティ推進部ではどういったことに注力されていますか?
アナウンサーの中にサステナビリティを担当しているチームがあり、今は島田彩夏アナウンサーがリーダーとしてメンバーを取りまとめてくれています。
私は「あなせん※」というアナウンサーが小学校でコミュニケーションの出前授業を行う活動で誰を派遣するのかの人選などの調整を行っています。
気持ちと身体のバランスがとれなかった経験
ご出産後、ベビーカーを押して外出する時などさまざまな不便があったかと思います。今回、ユニバーサルマナー検定を受講いただいて、きっと他人事ではなく自分事として捉えられた部分もあったかと思うのですが、受講されていかがでしたか?
垣内さんがおっしゃったように、学びながら自分の経験と重ねる部分がたくさんありました。妊娠してお腹がどんどん大きくなっていく時期に初めてその不便さや、もどかしい気持ちを経験しました。自分の気持ちはすごく元気だけれども身体が動かない、ということを初めて経験して『気持ちと身体のバランスがとれない』とはこういうことなんだろうと思いました。
例えば、お腹がどんどん大きくなると足元が見えなくなったり、靴下を履きづらかったりしますし、電車に乗っているときは、自分では立っていられると思っても急な揺れによろめいたりもしました。
一方で電車では誰かが「どうぞ」と声をかけて譲ってくださることが本当に多かったです。先日も子どもを抱っこしたままベビーカーも抱えて電車に乗ることがあったのですが、隣にいた方が「支えておきますよ」とベビーカーを持ってくれました。周囲の方の気付きとサポート、これがまさにユニバーサルマナーなのかなと感じました。
お声がけしてくださるのはどういった方が多いですか?
同年代の方が多かったですが、基本的には年代も性別も関係なく、さまざまな方ですね。外国の方からも声をかけてもらったことがあります。電車内では、優先席付近だけでなく、どこの席でも声をかけていただき助かりました。
そういったことがあると外に出やすくなりますね。
本当にありがたいですし、自分も誰かに恩返ししたいなと思います。
「遊ぼうよ!」と手を引くように車いすを押していた小学生時代
今は中学校や高校、大学で多様性について学ぶ機会が増えてきていますが、どういった方がユニバーサルマナーなどの知識や技術を身につけた方がいいと思いますか?
大人はもちろんですが、子どもに伝えたいなと思っています。私が小学生の時、転校が多く短い期間ではありましたが、車いすの友だちと一緒に過ごす時間がありました。
私としては「車いすの方だから」という意識はなくて……。楽しそうなことがあるから一緒に行こうってお友だち同士で手を引いていくような感覚で車いすを押して遊びに行っていました。私が勝手に押していたので、彼女にとって良かったか悪かったかはわかりませんが……。
大人だと車いすをどう押したらいいのか、どういう風に声をかけたらいいのかと、身構えてしまうこともありますが、考える前に行動をする子どもの時期に伝えられると、これから生活をしていく上でとても良いことだと思います。
また、学校の取り組みで盲学校へ行ったことがあります。点字を触ってみたり、自分たちで点字を書いて文章を作ってみたり、白杖を持っている方への接し方や盲導犬の存在などを学ばせてもらいました。
素晴らしい経験ですね。それだけ積極的に学べる機会はなかなかないと思います。
そうですね。丸一日かけて盲学校にお邪魔したことを未だに覚えているので、やっぱりいい機会だったと思います。
誰かを傷つけない「言葉選び」
車いすに乗っていた友だちとはどういったところに遊びに行きましたか?
通常学級で一緒に勉強をしていたので、学校内で遊んでいました。
同じ学級だったんですね。私は分離教育の世代だったので、最初、通常学級での受け入れは難しいと言われました。その後、母親をはじめ周囲の方の働きかけにより、通常学級への入学が認められました。車いすに乗っていることを特別視せず、周りの友人と同じように一緒に遊べた時間は、とても心地よかったです。なので、生野さんのご友人に対する向き合い方は、その方にとってうれしいことだったのではと思います。
幼少期からそういったことを学び、また経験をされた中で、例えば取材の際など、いろいろなところで多様な方と向き合う機会があったかと思います。何か意識されていることや気をつけておられていることはありますか?
日常生活でも仕事でもそうですが、事実を伝える際に、自分の表現で誰かを傷つけないような言葉選びを心掛けています。これまでのさまざまな経験、それから今回の学びを受けてその判断の幅が広がったなと感じています。
判断に迷われる時はどのような時でしょうか?
具体的な表現は難しいですが、例えば、しなくてもいい場面で男性女性を別々にしてしまうとか、わざわざこの表現を使わなくてもいいのではないかということもあります。テレビだからより多くの人に見てもらいたい、気にかけてもらいたいという思いがあってその言葉が選ばれていることもありますが、最終的に私が発するにあたって「これはどうなんだろう」と感じた時は、番組スタッフや先輩に相談して「こっちの言葉にしましょうか」とディスカッションしながら、表現を変えることもあります。
コミュニケーションに関する時代の変化と関わり方
今は多様性に対して社会全体の関心が高まっていますし、生野さんが先ほどお話しされていた(ベビーカーに関連する)サポートなどが非常に多くなってきていると思います。それは大変素晴らしいことですが、まだまだ足りない面もあると感じます。
例えばエレベーターに乗る際「車いすユーザーやベビーカー利用者を優先しましょう」というような注意書きを見かけるかと思います。この時、どちらかというと若い世代の方のほうが譲ってくれる傾向にあります。これは、先にお話した通り、多様性について学ぶ機会が増えているからだと考えています。
サステナビリティ推進部の活動などでも若い世代に伝えていらっしゃると思いますが、包括性、多様性等に関して日本全体で意識を高めていくにはどのように伝えていけば良いのか、アイデアはありますでしょうか?
そうですね。とにかく学ぶこと、相手のことを知ることが大切だと思います。
会社の中でも、世代によって考え方がさまざまです。自分たちの意見を伝え合い「こういう考え方もあるんだ」とみんなで学んでいくことで、より理解を深められると感じています。
コロナ禍以降、テレワークなども増え、直接会って話すなどのコミュニケーションの場が減っていると感じています。画面上だけでやりとりすることも増え、これがいいか悪いかは状況によりますが、アナウンス室でも、画面上の会議の際どのようにコミュニケーションをとるかをよく議論しています。
例えば、上の人からの報告だけではなく、若い人にも「この業務についてどう思った?」という声かけをするなど、お互いに意見交換できるような仕組みに少しずつ変わってきています。
「いつでも声をかけられる自分がいる」という安心感
気持ちを丁寧に伝えることや行動で示すことは、思いやりや優しさがあるからこそできることだと思いますが、例えば仕事が多忙で心理的な余裕がない状況のときなど、どうしても他者に対して優しくできなかったり、街中で行動できなかったりすることもあります。
生野さんもお仕事など大変お忙しいと思いますが、心の余裕はどのようにキープされていますか?
心の余裕は、あんまりない方ですが……(笑)。
余裕がない時でも、なるべく『楽観的に』考える部分もあるかもしれません。無理をしすぎないように気をつけたり、大変な時は誰かに頼ったり、周囲に甘える、頼るという気持ちも持つようにしています。
ユニバーサルマナー検定の中では「何かしなければいけないと思っていると、それはすでに相手にとって過剰な対応かもしれない」ということをお伝えしています。肩肘はらずに、できる範囲で向き合っていきましょうねとお伝えしているので『楽観的に』というのは、非常に重要なキーワードだなと思いました。
そうですね。この検定を受けたことで、困っている人を見かけたときに「どうしよう」となるのではなく「いつでも声をかけられる自分がいる」という安心材料になっています。
そう言っていただけてうれしいです。
生野さんが多様性を考えるとき、女性やアナウンサー、親としての視点で考えられると思うのですが、最近考えられていることや深めたい学びはありますか?
サステナビリティ推進部のメンバーとは、自分の立場ではこうだけど相手は違う考え方をしているし、障害があったとしても、その障害のある人みんなが同じ考え方ではないし、男性とか女性とか、そういったことも関係なく、みんな違う一人ひとりの人間だよね。という話をよくします。
カテゴリで分けられることは多いけど、それぞれ個性があって違う人間なんだと思えば、もっと相手のことも考えられるし、みんなが快適に過ごせる空間をつくれるんじゃないかなと話しています。
多様性を知る意義
フジテレビの皆さんがユニバーサルマナーを習得いただいたことで、若い世代にユニバーサルマナーが浸透しており、多くのアナウンサー志望の方にも受講いただいています。また、現在ユニバーサルマナー検定は、約18万人の方に受講いただいています。ユニバーサルマナーが拡がりつつある中で、学ぶ意義についてあらためて生野さんの言葉でお聞かせいただけますでしょうか?
時代が刻々と変化する中でどのように対応していくか、どういう社会にしていきたいかを、アナウンサーたちは日々考えています。それを考えるには『学び』が必要で、そこからどのような表現をしていくか、どう相手に伝えていくかということもまた『学び』が必要です。
多方面から情報を得て、その中からどれを選択し、どのように伝えるのかを考えることがアナウンサーの仕事だと思っているので、学び続けることが大事だと思います。
今後、機会があればぜひ2級も受講したいと考えています。
皆さんにユニバーサルマナーをお伝えした際、積極的にグループワークへ参加してくださり、さまざまな質問もお寄せいただきました。生野さんのおっしゃった通り、日々、時代の変化に向き合っておられるからこそ『学び』への意識が高いんですね。お忙しいかと思いますが、受講いただけたらうれしいです。本日は貴重な機会をいただきありがとうございました。
ありがとうございました!