こんにちは。講師の薄葉です。ユニバーサルマナー検定の講義は、車いすユーザーや視覚障害のある人など、さまざまな障害のある講師が担当しています。

今日は聴覚障害がある薄葉と視覚障害がある原口の2人で、ユニバーサルデザインのトレードオフ※ の課題と誰もが使いやすい設備やサービスについてお伝えします。

※両立できない関係性のこと
(例:散財と貯蓄、●●な人は使いやすいけど■■な人には使いにくい など)

 

前編はこちら

 

 

目次


障害者対応の接客マニュアルは不要?
セルフレジのサポート方法
場合によっては、情報を音声で読み上げてほしくないことも?
音声情報はスマートフォンで読みあげるのがベスト
障害者のインターネット利用率
最後に

 

障害者対応の接客マニュアルへの不安


原口
マニュアルがあることによって店員さんの対応方法が画一的になってしまいやすいからです。障害のある人といっても十人十色。個別にサポート対応してほしい場面はたくさんあります。
薄葉
確かにそうですね。とはいえ、対応に対する知識は人それぞれですし、最低限の対応を定めた接客マニュアルはあった方がお客さんにとってもお店にとっても有効だと個人的には思います。
原口
そうですね。コミュニケーションや労力コストの削減、店員さんの対応力の差異などを考慮すると、最低限の手順を決めておくことは必要だと最近は考えるようになりました。弊社で監修している資料には"●●な人には■■する"ではなく、"こういう状況で、こういう風に困る人がいる"と記載しています。
薄葉
そうですね。しかし、常に店員さんのサポートに頼るのは心苦しいでしょうし限度もあります。ハードで解決できることは解決したいですね~。

 

セルフレジのサポート方法


原口
最近の衣料服量販店では、商品を入れた買い物カゴを所定の場所に置けば、自動で商品を精算してくれるセルフレジの設置が増えてきました。ただ、残念ながら僕には使えません……。
薄葉
タグに付いている電子チップを自動で読み込むRFID式※ のセルフレジですね。バーコードをバーコードリーダーに読み取らせるタイプのセルフレジより精算の時間が短縮できますし、レジの渋滞緩和にも繋がる非常に便利なシステムではありますが、原口さんは使えないんですね。うーん、残念……。その場合、どのように会計を手伝ってもらうのでしょうか。

※「電波を用いてRFタグのデータを非接触で読み書きするシステムです。バーコードでの運用では、レーザなどでタグを1枚1枚スキャンするのに対し、RFIDの運用では、電波でタグを複数一気にスキャンすることができます。」(DENSOホームページから引用

原口
タッチパネルに表示された情報や指示を、近くにいる人に読み上げてもらい、僕がお願いする通りに代理で操作してもらいます。
そもそもなんですが、僕は値札のタグが見えません。予算内で購入するために値段を事前に知りたいので、店員さんか家族や友人に必ず聞きます。そして、会計する時にあらためて金額を確認してから払いたいので、セルフレジの読み上げ機能で各商品の値段と合計金額は読み上げてほしいなと思います。
薄葉
確かにそうですよね。最終的に値段がよくわからない状態で、支払い手続きをするのは不安な気持ちになりますよね。
原口
はい。これは“安心感の問題”ですね。

 

場合によっては、情報を音声で読み上げてほしくないことも?


薄葉
セルフレジでは現金、キャッシュカード、電子マネーなど支払い手段を選択できると思いますが、家族や友人ならともかく、金銭の支払いという非常にプライベートな行為を見ず知らずの店員さんに代理で操作してもらうのは不安がありませんか?
原口
あります。銀行ATMの操作も同じです。ただ、キャッシュカードの挿入口やボタンは分かりにくいですし、自分で操作するのは難しいことが多いですね。
画像 キャッシュカード挿入口
薄葉
そうですか。私は最近人工内耳を装着するようになったので、キャッシュカード決済機の音声情報も少し聞こえるようになりました。思い返してみると “カードを入れてください”、“暗証番号を入力してください”、 “カードを取り出してください”という指示くらいしか情報がなかったように思います。あらためて考えるととても不便ですね。
原口
そうなんですよ。現金なら自分で取り出すので問題ないのですが、電子マネーやキャッシュカードなど電子システム上で支払う場合は、自分がいくら払ったのか不明なので不安な気持ちになるんですよ。
画像 キャッシュレス決済
薄葉
そうですよね。ただ、悩ましいなと思うのは決済金額を読み上げてほしい一方で、そうした音声情報は周囲の人にも聞こえてしまうので、防犯上の観点からは読み上げない方がいい情報もありそうです……。
原口
おっしゃる通りです。
薄葉

その問題を解決するには、どのような設備やサービスがあれば便利だと思いますか?

 

音声情報はスマートフォンで読みあげるのがベスト


原口
理想はセルフレジ機械とスマートフォンアプリを通信でつなげたいです。使い慣れた読み上げ機能によって情報を取得できますし、電子決済できるので。
薄葉
それは便利!イヤホンを使って読み上げ音声を聞けば周囲の人に個人情報が漏れてしまうこともないので安心ですね。

 

障害者のインターネット利用率


原口
そうなんですよ。
知っていますか?視覚障害のある人のインターネット利用率は91.7%※ なんですよ。

障害者のインターネット利用率の詳細についてはこちら(総務省情報通信政策研究所)

薄葉
はい。同じ資料によると、聴覚障害のある人のインターネット利用率も高くて、93.4%もあるそうです。
原口
障害者の生活の質は、ICTの進歩と共に向上しています。関連して、障害者のスマートフォン利用率も高いですよね。そうしたICTやIoTサービスがより普及し、すべての店で会計がしやすくなるのが理想です。
薄葉
本当にそうですね。障害の有無に関わらず、誰もが使いやすい設備やサービスが増えると良いですね!一方でデジタルが苦手な人もいますから、有人のサポートも残してほしい気持ちもあります。
原口
はい。ハードを改善しつつも、ハードで解決できないことはハートで解決できるといいですね。
薄葉
そうですね。ハードとソフトのソリューションがバランス良く機能しているのが、理想的な社会の在り方だと思います!

 

最後に


ここまでお読みいただきありがとうございました。

いかがでしたか?
テクノロジーの進歩と共に、障害者の生活は飛躍的に便利になりましたが、まだまだ改善の余地はありそうです。

今回は“聴覚障害のある人にとっては使いやすいタッチパネル式セルフレジが視覚障害のある人にとっては使いにくい”というユニバーサルデザインのトレードオフをテーマに取り上げました。

他にも、視覚障害のある人にとって必要な点字ブロックが、車いすユーザーやベビーカーユーザーにとっては時に支障となってしまったり、情報を入手するために必要な字幕や手話通訳のワイプが発達障害のある人にとっては過剰な情報となってしまったり……。さまざまなユニバーサルデザインのトレードオフは存在します。

こうしたトレードオフを解消していくためにハードとソフトの両面において、どのような工夫ができるのでしょうか。今後もこうしたテーマも取り上げていきます。

それでは、また次の記事でお会いしましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!

 

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