こんにちは、ユニバーサルマナー検定講師の薄葉です。聴覚に障害のある講師として全国各地の企業や自治体、教育機関で研修や講演を担当しています。

前編では
・はじめに
・「かわいそうね〜」
・「もう少し障害者らしく振る舞った方が良いんじゃない?」
をお伝えしました。

 

前編はこちら

 

 

目次

「いつまでも健常者気分でいてはダメよ」
「彼女、お耳が聞こえないんです〜」
「聴覚障害者ゆえ、お聞き苦しいところはあるかもしれませんが」
最後に


3.「いつまでも健常者気分でいてはダメよ」


これは以前、自分の母親から言われた言葉です。「障害者として生きていくには気持ちの切り替えが必要ですよ」というアドバイスなのかもしれません。または、2のケースのように「叩かれないように障害者としてわきまえて行動しなさい」という意味合いなのかも知れません。自分の母親から言われた言葉なので悪意はないと思っていますが、言われた当時、違和感を覚えた記憶があります。

私は講演で「障害は人が生きるうえで起こるトランスフォーメーション(変質や変換)」だと伝えています。人は誰しもお世話をしてもらえれば生きていけない幼少期を経て大人になります。また、私が聞こえなくなったように、人生の途中で、病気やけがを理由として障害がある立場になることもあります。

年齢を重ねれば高齢者になり、さまざまな心身の不自由を感じるようにもなります。人は誰しも、置かれた環境によっては『障害者』になりうるのです。
「今日からあなたは障害者(高齢者)です。では、今日からできる限り、障害者(高齢者)らしく振舞ってくださいね。はい、スタート!」
そんな社会は誰もが生きにくい、そう思いませんか?

 

 

4.「彼女、お耳が聞こえないんです〜」


前職で男性の上司から言われた言葉です。当時、新社長が就任した際のことです。まだ30代と若く、また気さくな性格の方だったためか、本社の各部署を回って「これからよろしくね」と社員に挨拶をしてくださっていた時のことです。

私と目が合った社長が私に話しかけようとしたところ、先述の上司がさっと私の前に立ちふさがり、自分の両耳を両手で塞ぐジェスチャーと共に「すみません〜。彼女、お耳が聞こえないんです〜。」と言ってきました。その時の社長の反応が印象的でした。「あ、しまった!」とばかりに慌てた素振りをして、私に謝ってきたのです。

上司の言葉に一瞬絶句したものの、すぐ我に帰り「いえ、社長は何も悪いことはなさっていませんよ」と慌てて対応しました。本人が開示できない場合は別として、基本的には障害の開示は本人がすればよいことです。

また、聞こえない人に話しかけてはいけないというルールは存在しません。この上司の対応は親切のつもりだったのかもしれませんが、周囲の人に「聴覚障害者に話しかけてはいけないんだ」という思い込みを与えたように思います。その場にいた(上司以外の)皆が気まずい思いをしたという体験でした。

 

 

5.「聴覚障害者ゆえ、お聞き苦しいところはあるかもしれませんが」


これは、私が担当したとある講演会の時、講演前に司会者が来場者に伝えていた言葉です。これも悪意ある言葉ではないと推測しますが、ただ、私の発声が聞き取りにくいと感じたのであれば、私に直接言って、同じ内容を来場者への挨拶に付け加えてほしいと要望を出せばよいわけです。

司会者は私には伝わらないと思いこっそりと言ったつもりかもしれませんが、来場者に聴覚障害のある方がいた関係で手話通訳者が会場にいたため、手話通訳を見る形で上記の言葉が私にばっちりと伝わっていたのでした。

この時も一瞬驚きましたが、すぐに冷静になり「お聞き苦しいことがあるかもしれませんが、そうした際は言い直しますので、遠慮なくおっしゃってくださいね」と私からも来場者に伝えるという対応をした記憶があります。

とはいえ、第三者から上記のような言葉を勝手に伝えられて気持ちの良い思いをする聴覚障害者はいないと思います。こうした要望は直接本人に伝えるのが適切だろうと考えます。

 

 

最後に


皆さま、いかがでしたか。

何気ない一言のなかにさまざまな『アンコンシャス・バイアス』や『マイクロアグレッション』が含まれていたのではないでしょうか。本日の記事が皆さまと障害のある人がコミュニケーションをとる際の一助となりましたら、大変うれしく思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。
また次の記事でお会いしましょう!