銀座には、通りごとに店舗や企業が加盟している「通り会(商店街)」や、町会・業界団体など、全部で34団体が存在しています。それらがまとまり、銀座の街の全体方針を意思決定しているのが「 全銀座会 」です。
全銀座会では、2016年春からユニバーサルマナー検定3級を導入し、これまで全銀座会に所属する企業の代表や店舗のスタッフ300名が受講しました。取組みのきっかけや、実施後の変化について、 全銀座会 会長の遠藤 彬(えんどう あきら)様にお聞きしました。
ソフト面でのおもてなしを実現したい
東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まり、選手村が晴海ふ頭に建設され、2020年には多様な方々が銀座に訪れることが予想されます。私たちは、銀ブラをすべての人に安心して楽しんでもらう街を目指していますが、銀座はビルが密集していて、必ずしもバリアフリー対応ができているわけではありません。
だからこそ、ハード面の改修に変わる、ソフト面でのきめ細やかなおもてなしを実現しようと考え、ユニバーサルマナー検定の受講を推進しています。高齢者や障害者、ベビーカー利用者、外国人など、様々な視点を持つ人々と向き合うための心構えとなる「ユニバーサルマナー」を銀座の街に広めていきたいと思い、学ぶ場を設けました。
今までの銀座を大切に、新しい銀座を創っていく
検定では、自分とは違う誰かと向き合うときに「何かお手伝いできることはありますか?」というお声掛けが大切だと、障害のある当事者の講師から学びました。これは目から鱗でした。これまで「この配慮は失礼になるのではないか」と、難しく考え、躊躇してしまうことがあったからです。
“ちょうどの配慮”は、当事者に聞かないと分かりません。受講してくださる企業の皆さまからは、ユニバーサルマナーが個々のお客様への対応を改めて考えるきっかけになり、おもてなしの意識が高まっているという話を聞いています。魅力的な街であり続けるために、今までの銀座を大切に、歩きやすく、安心して楽しんでもらう銀座の街を創っていきたいと考えています。
さらに、 全銀座会 に所属する株式会社ホッタ様、東京高速道路株式会社様、株式会社ミキモト様に導入後の変化についてお聞きしました。
街・通り・店自体のブランドを高めていくための人づくり
1879年の創業以来、「誠心誠意」「お客様のために創意と工夫で最高の質のサービスを」という経営理念を大切に、時計・宝飾品の輸入や国内販売を行っているのが「株式会社ホッタ」です。
2002年にロレックス正規品専門店「レキシア銀座」(現「ロレックスブティックレキシア」)を銀座にオープンし、2007年に本社を銀座に移転しました。
株式会社ホッタでは、これまでに60名の社員の皆さまがユニバーサルマナー検定を受講しました。受講後の感想や今後の展望を取締役社長の堀田 峰明(ほった みねあき)様にお聞きしました。
仕事柄、全国各地の様々な街に行く機会が多いのですが、良い街には、良いお店があり、良い人がいて、良い商売があると考えています。
そう考えると銀座はすごく良い街です。たとえば銀座には「銀座が良い街であるがゆえに自分たちの商売が成り立っており、だからこそ銀座の街のために自分も何か力になりたい」と思って活動している方がとても多いと思います。これは大きなイベントの開催時に、街の案内役などの運営ボランティアが多数集まることからもわかります。
現在はインターネットで何でも買えてしまうようになってきました。そういう時代だからこそ、リアルショップでは人が人に対してサービスを提供する力を磨くことがより大切になってくると思います。お店の価値を上げるのは、人のホスピタリティです。
ユニバーサルマナーを習得することで、多様な方々へのコミュニケーションの在り方を学ぶことができました。実際、受講したスタッフからは、「自分の立場だけでお話をするのではなく、相手に寄り添った対応をすることで、お客さまとの良い距離感を築くことができた」「日々の業務において、周りのスタッフにどんなフォローをするかを、周囲の状況を見て判断し、行動するようになった」という声をもらいました。
銀座の街がこれからの少子高齢化社会においてもお客さまに選ばれ、発展しつづけるためには、「ご高齢の方が、お孫さんを連れていきたいと思ってもらえる優しい街を作る」という視点がとても大切だと思っています。そのためのひとつの方法として銀座の街としてユニバーサルマナーを学んでいくことは素晴らしいことだと思いますし、そのことはジワジワと街の魅力を上げることにつながるはずです。
銀座の一員として、銀座の発展と繁栄に貢献していきたい
銀座一丁目から、八丁目を走る全長2km 余の自動車専用の道路と、屋上を道路としたビルを運営しているのが「東京高速道路株式会社」です。経営指針の一つに、「良き地域市民として活動し、地域の発展と繁栄に貢献します」を掲げ、地域のイベントへの参加やお手伝いを積極的に行っています。
東京高速道路株式会社では、これまでに全役職員のうち 9 割以上の皆さまがユニバーサルマナー検定を受講しました。導入後の変化や今後の展望について、総務部長の長谷川 智(はせがわ さとし)様、企画統括部長の花木万里子(はなき まりこ)様にお聞きしました。
銀座は、全銀座会を中心とした街の組織がしっかりしています。弊社は、一丁目から八丁目にかけて、道路及びビルを所有しているため銀座地域全体に何らかの形で関わりがあります。2020 年には、東京オリンピック・パラリンピックが開催され、多様な方々が銀座へお越しになります。弊社も、いらっしゃる方々に適切に向き合っていきたいと考えおり、研修の一環でユニバーサルマナー検定の受講を決めました。
受講後の報告書には、「障害は人ではなく、環境であるということを学びました」「道路施設の維持管理をしている者として、大変衝撃的で、業務で障害のある方の立場になって深く考えるきっかけになりました」「今後は困っている人がいたら、お声がけしていきたいです」「“迷わず・素直に・すぐ行動”を心がけて、周りの方へもユニバーサルマナーを広めていきたい」など、多くの気づきや学びが書かれています。
また、車いすユーザーや聴覚障害のある方、難病の方など、様々な特性がある講師が担当されているので、担当講師によって受講者側の気づきや学びも多岐にわたります。それを職場で共有する機会もでき、障害のある方にとって、何が「バリア」になるかを話すようになりました。
銀座にお越しになる多くの方々に銀座を好きになっていただけるよう、社内にユニバーサルマナーを浸透させ、銀座の発展に貢献していきたいと考えています。
新たな価値を創造していくための“ユニバーサルマナー”
「世界中の女性を真珠で飾りたい」と願い続けた創業者・御木本幸吉氏の思いを受け継ぎ、1893年の真珠養殖に成功して以来、美のために捧げているのが「株式会社ミキモト」です。1899年には、銀座に日本で初めて真珠専門店「御木本真珠店」を開設し、日本における近代宝飾産業の礎を築きました。
株式会社ミキモトでは、これまでに112名の社員の皆さまがユニバーサルマナー検定を受講しました。受講後の感想や今後の展望を総務部 総務課長の冨澤 修児(とみざわ しゅうじ)様にお聞きしました。
弊社の店舗には、ご高齢の方や足の不自由な方もお越しになります。新本店の竣工の際、おもてなしのスキルを一段高いレベルへ引き上げるため様々な取り組みをしていましたが、そのなかの一つとして、ユニバーサルマナー検定を受講しました。これまでは、対応に慣れているスタッフがいるものの、個々のスキルに頼っていた部分があり、多様な方々への理解やコミュニケーションの在り方について学ぶことはありませんでした。
障害のある当事者講師から、高齢者や障害者へのサポート方法に関する知識だけでなく、本当の当事者心理を教えていただいたことで、新たな視点を獲得することができました。銀座の街の魅力は、「伝統と革新がうまく共存されていること」だと思います。
脈々と受け継がれてきた歴史のある文化を残しつつ、銀座にお越しになる方にどうしたら安心して楽しんでもらえるかを、全銀座会を中心に追求し続けています。街全体でユニバーサルマナーを広めていくことは大変意義のあることだと思いますし、多様な方々に「銀座に来て良かった」「また銀座に来たいな」と思ってもらえるよう努力を積み重ね続けていきたいです。