ユニバーサルマナー講師の薄葉です。※1

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、政府による緊急事態宣言が発動されて以降、外出の自粛、他者との接触抑制8割を目標としたフィジカル・ディスタンスが奨励されました。
その結果、テレワークを導入する企業が増加し、ユニバーサルマナー検定を運営するミライロでも、2020年4月1日から各社員は自宅勤務となりました。

今日は、聞こえない私がどのようにテレワークを実施しているかをご紹介しながら、
聴覚障害者の「困りごと」「解決策」について考えていきたいと思います。

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聴覚障害者の困りごととは?

日本における18歳以上の聴覚障害者の人口は、約34.1万人です。
ただし、この人数は身体障害者手帳を所持している、いわば、国が把握している公的な聴覚障害者の総数のため、身体障害者手帳を取得していない、聞こえに困っている人の人口は推計で1,400万人以上ともいわれています。※2

聴覚障害者の困りごとは、大きく分けて2つの領域があります。
「音声情報の取得における困りごと」「コミュ二ケーションにおける困りごと」です。

聴覚障害者がテレワークを実施するうえで発生する「音声情報の取得における困りごと」の一例としては、「研修の動画に字幕が付いていないと内容がわからない」「パソコンなどのエラー音や通知音が聞こえない」「マイクの通信状況が確認できない」といったことがあります。

最近では、研修を受ける場所や時間にとらわれないことや、研修の質を均一に確保できるなどの利点が評価され、e-ラーニング(パソコン、スマートフォンやタブレットなどのデジタル機器、インターネットを利用しての教育、学習、研修)を利用した社内研修を導入する企業が増えてきました。

しかし、こうしたe-ラーニングを聴覚障害者が受講する際に、動画などの研修資料に字幕、または手話通訳が付いていないため、内容が理解できないといった困りごとがあるのです。

聞こえない聴覚障害者にも内容が理解できるように、音声などの聴覚の情報だけでなく、字幕や手話通訳などの視覚の情報を付けることは「情報保障」といいます。
主に、視覚障害や聴覚障害がある方が情報を入手する際に、必要なサポートを行う配慮として用いられます。
情報保障は、聴覚障害者の権利として、障害者差別解消法(2016年4月から施行)や改正障害者雇用促進法(2020年4月一部改定)によって規定されています。※3

聴覚障害のある社員も企業の一員として、規定された研修を受ける権利と義務があります。研修の際の情報保障は是非行っていただきたいと思います。


「コミュ二ケーションにおける困りごと」
の例としては、「会議での発言がわからない」「自分の発言が相手に伝わらない」「電話を使えない」「雑談に参加できない」などがあります。

また、コロナ禍では聴覚障害者にとって思わぬ落とし穴もあります。

下記は、弊社のリサーチ部門で、新型コロナウイルスにおける障害のある人の困りごとを調査したアンケートの内容になります。
◆ユニバーサルマナー検定を運営するミライロが実施した、「新型コロナウイルスによる影響」調査結果はこちら


「聴覚障害者の困りごと」に特化して注目すると「普段は相手の口の動きを読みとって会話しているが、マスクで見えないために困る」ということが記載されています。

これは、私も同様なのですが、聴覚障害者のうちの一定数には「読話(どくわ)」といって、話し手の口の動きを読みとり、文脈を推測しつつ、会話の内容を把握する方法で日常のコミュ二ケーションを取っている人がいます。
この「読話」の際に、相手がマスクをしている状況だと、口元が隠れてしまい、会話の内容が把握できなくなってしまうのです。

もちろん、私たち聴覚障害者の側も、新型コロナウイルスの感染抑制のために、マスク装着が必要なことは理解しているため、相手に「マスクを外してください」と無理なお願いはしません。

私個人の所感ではありますが、日本人は世界でも類を見ないほど親切な国民性です。
聞こえないことを伝えると、大抵の場合には、こころよく筆談で対応してくださったり、身振り手振りを交えて話してくださるなど、とても親切に、コミュ二ケーションの工夫や配慮をしていただけます。

ただし、そうであってもコロナ禍では、聴覚障害者はいつもよりコミュ二ケーションが困難になってしまっていることは、アンケート結果からも明らかです。

コロナ禍において大切な姿勢

コミュ二ケーションの工夫や配慮で、最近、私が感銘を受けたエピソードがありますので、ご紹介します。

新型コロナウィルスの感染が徐々に広まりつつあった頃でしょうか。
とある都内の飲食店で食事をした際に、店舗の入り口と、レジの目につきやすい箇所にある張り紙がしてありました。

「新型コロナウィルス感染抑制のため、スタッフはマスクをさせていただきます。ご了承のほど、よろしくお願いします。」
ここまではよく見かけるお知らせなのですが、さらに続きがありました。
「マスクはしていますが、スタッフ一同、マスクの下は笑顔です!」と書いてあったのです。

ふと、顔を上げ、店員さんのお顔を見ると、目が合った店員さんの目はきちんと笑っていて、「この人は本当に笑顔なんだな。」とはっきりとわかりました。
店員さんの普段と変わらない、いえ、むしろ、普段以上の笑顔とホスピタリティに心から嬉しくなるとともに、「見えないからこそ、見えないことを言葉で可視化し、行動で示す。」工夫は、大変素晴らしい事例だな、と感銘を受けた記憶があります。

このように、非常時の環境下だからこそ、相手の立場に立って考えるサービスやユニバーサルマナーが社会から求められているのではないでしょうか。
マスクをしていても、笑顔で過ごしていきましょう。

テレワークにおける聴覚障害者の困りごとと必要な配慮とは?

では、いよいよ本題です。
聴覚障害者がテレワークを実施する際の困りごとや課題についても、順番に見ていきましょう。

【CASE1】

オンライン会議システムを使用した会議や面談における困りごとや課題

オンライン会議システムは様々なものがありますが、聴覚障害者が面談や会議に参加する際の共通の課題は「音声が聞こえない、聞こえづらい」ことです。
よって、「発言者の発言(音声)をどのように視覚化するか」が解決策として必要になります。


例えば、音声情報の文字化

オンライン会議システム上で、発言者の発言内容が自動で文字化されるような自動字幕が搭載されていればよいのですが、残念ながら、現状では、日本語字幕は未対応であったり、字幕機能がないのがほとんどです。

聴覚障害のある当事者の一人として、一日でも早く、オンライン会議システムに字幕機能がデフォルトで搭載される日を願っています。
とはいえ、無い袖は振れませんので、私はオンライン会議の際には、「音声情報を文字化するアプリケーション」を併用しています。

自動音声認識の技術により、発言された音声がリアルタイムで文字に変換される大変便利なアプリケーションです。
聞こえない私が働くうえで必須のアイテムといえるでしょう。

音声情報を文字化するアプリケーションを使用するためには、会議の参加者は、事前にスマートフォンなど各自のデジタルデバイスにアプリケーションをインストールしておく必要があります。
会議参加者は各自のデバイスの集音マイクに発言を拾わせ、聴覚障害者は、アプリケーションの画面上に表示されたテキストを読む方法で、発言内容を把握し、会議に参加します。

テクノロジーの進化により、音声情報を文字化するアプリケーションの性能は日々向上しています。
しかし、現状、若干の誤字が発生することもあります。
そうした際には、会議参加者のうち、比較的手すきの人が、手元のデバイスのアプリケーション上や、別途で起動したパソコンのアプリケーション上で、誤字を正しい発言内容に修正することにより、更に精度の高い情報を聴覚障害者へ伝えることができます。

ありがたいことに、弊社では、会議参加者が自主的かつ積極的に誤字修正に関わってくれます。
しかし、一部の人だけが誤字を修正するのは負担が大きいですし、会議の内容が頭に入らないなどの弊害も発生してしまいます。
そのため、誤字修正の担当を時間ごとの持ち回り制にし、誰か一人だけに過度の負担がかからないように工夫しています。

また、音声情報を文字化するアプリケーションの素晴らしい点は、音声に変換した文字の記録を議事録としても転用できるため、別途で議事録を作成する必要がなくなります。

ただし、話し手が早口で話してしまったり、複数の発言が重複してしまうと、音声が混濁してしまい、システムが音声を適切に認識できず、正しく文字化されないといった注意点もあります。
そのため、会議の参加者は、発言の際には、マイクが集音しやすい「速度」「話し方」で話すといった配慮が必要になります。

この配慮は、音声情報を文字化するアプリケーションを活用するためだけではありません。
聴覚障害者の中には、まったく聞こえないわけではありませんが、聞き取りづらいといった方もいます。
補聴器や人工内耳など、聞こえを補聴する機器を使用する方や、聞き取りと読話を併用する聴覚障害者への配慮として、会議の際には、早口で話したり、複数の人が同時に発言しないように気を付けましょう。

聞こえに問題がなくても、ゆっくりわかりやすく発言してくれた方が、理解しやすくて助かりますよね。

「パソコンなどのエラー音や通知音が聞こえない」「マイクの通信状況が確認できない」という課題に関しては、聞こえている社員が、聴覚障害者のパソコンの動作確認やマイクの音声確認、オンライン会議システムの設定といったサポートを、事前に行っておくことがよいと思います。

また、「自分の発言が相手に伝わらない」といった困りごともあります。

聴覚障害者の中には、発声が困難な人(聴覚言語障害者)も一定数いるため、オンライン会議システムでは発言ができない場合もあるのです。
オンライン会議システムにチャット機能が付いていれば、チャットに入力する形で発言はできますが、文字の入力に時間がかかってしまいます。

常時進行している会議の場では、適切なタイミングが発言できないといった課題もあります。
そうした際の解決策として、会議では進行役を決め発言は挙手制にする。
また、指定された発言者が発言を終えるまでは、他の参加者は発言を控えるなどの配慮が必要になります。

限られた時間内で終了しなければいけない会議や、過密なスケジュールで実施される会議の場合には、聴覚障害者へ事前に会議資料を共有し、目を通しておいてもらうことや、質問などは事前にテキストにまとめておいてもらうといった工夫や配慮が必要になります。

また、同僚との比較的カジュアルな会議などでは、気兼ねなく質問したり、発言できたりもしますが、お客様との面談や上司が同席するようなオフィシャルな会議では雰囲気が異なります。

そうした場では、緊張感が発生しやすいことに加え、普段から聞き間違いなどにより誤認識やコミュ二ケーションのズレが発生しやすい聴覚障害者は、より委縮してしまう傾向があります。

聴覚障害者が参加する面談や会議では、こうした注意点を念頭に置き、聴覚障害者も会議に参加しやすいよう会議進行のルールを事前に決めておいたり、各自が発言しやすい場の雰囲気作りをしたりするなど、コミュ二ケーション上の工夫や配慮を行うことが大切です。

こうした配慮は、多様な意見が活発に行き交う、よりインクルーシブで生産的な会議づくりにも繋がるでしょう。

【CASE2】

自宅でオンラインセミナーを受講する、または自宅からオンラインセミナーを主催する場合

私の仕事はユニバーサルマナーの講師です。
そのため、普段から、様々な企業や自治体、教育機関へ赴き、ユニバーサルマナーの講義を行っています。
また、全国各地で講演の活動もしています。

私は元々は聞こえていたので、話すことは可能です。
普段のセミナーでは、発話して受講者に講義を行います。

対面式講義の際に受講者から質問を受けた場合は、同行した手話通訳者に受講者の質問を通訳してもらいます
オンライン会議システムを利用したオンラインセミナーの場合には、オンライン会議システムに付いているチャットに質問を入力してもらいます。

ほかにも、遠隔で文字や手話による通訳を受けることができるシステムもありますので、セミナーの状況によって、様々なツールを使い分けています。

手話通訳者に通訳してもらう様子

 

では、逆に聴覚障害のある私が講義を聴講する場合には、どうでしょうか。
前述した通り、e-ラーニングなど録画された動画などを用いた研修を受ける際には、動画に字幕が必要になります。

すべての動画に字幕が付いていれば、聞こえない聴覚障害者だけではなく、脳機能の障害などで音声情報の理解が困難な方々にとっても便利なのですが、残念ながら、情報のアクセシビリティを含む社会環境の整備はまだまだ発展途上です。

字幕が付いていない場合には、パソコンから出力した音声情報をスマートフォンで集音し、先ほどご紹介した音声情報を文字化するアプリケーションを使用する方法で対応しています。
しかし、本来は日本で規定されているアクセシビリティ規格に準拠して、動画には字幕を付けることが望ましいとされています。※4

ただし、過度な負担があり字幕が付けられないような場合には、動画の内容と同じ情報をテキスト化した資料を用意し、事前に配布していただけると内容が理解しやすくなり、とても助かります。
また、私が対面式の講義や講演を聴講する際には、事前に主催者に依頼し、手話通訳か文字通訳を付けていただくこともあります

話はわき道にそれますが、最近のようなコロナ禍の社会情勢では、手話通訳者や文字通訳者の感染予防についても考慮しなくてはいけません。

特に、手話の文法の一部として表情や口の形を聴覚障害者に見せる必要がある、手話通訳者の場合においては、不織布で作られた通常のマスクでは口もとが隠れてしまい、通訳ができなくなってしまいます。
マスクができない場所での通訳をどうするかといった通訳者の安全の確保と、通訳の質の確保の両立は、喫緊の課題となっています。

透明な素材で作られた特殊なマスク製作が急がれる一方で、現状、通訳現場で手話通訳者は、マスク無しの状態か、または透明な医療用フェイスガードを応用する形で対応しているそうです。

こうした感染予防の必要性がある通訳現場であったり、通常、通訳者が入室できない集中治療室や手術室などの特殊な環境下では、通訳者を医療チームの一員として職員雇用するか、または、タブレットなどの画面上に映し出された通訳者を、聴覚障害のある患者に見てもらう方法で、遠隔の場所から通訳を行う必要性が議論されています。

まとめ

ここまで、私自身の体験を通じて、聴覚障害者がテレワークを実施する上での課題とその解決策について、ご紹介しました。
いかがでしたか。

リモートワークの際に、情報が伝わりやすくなる工夫をしたり、コミュ二ケーションを取りやすくする配慮を行うことで、聴覚障害者の課題を解決するだけではなく、リモートワークを実施するすべての人が働きやすくなるといった好影響が社会に波及することを願っています。

それでは、またお会いしましょう!

 

※1 <ユニバーサルマナー>
・障害者や高齢者といった多様な方々へ向き合うためのマインドとアクションのこと。

※2 <聴覚障害者の人口数>
・厚生労働省「 生活のしづらさなどに関する調査」(2016)
一般社団法人日本補聴器工業会(2015)

※3 <障害者差別解消法、障害者雇用促進法>
内閣府
厚生労働省

※4 <アクセシビリティ規格>
・ウェブアクセシビリティ基盤委員会「JIS X 8341-3:2016 達成基準 早見表(レベルA & AA)」(2018年12月)