学校法人上智学院 上智大学
教養としてのユニバーサルマナーに取り組む上智大学。2017年7月から検定を導入し、約1年半で259名もの学生が3級を取得しました(2019年1月時点)。東京大会の競技会場が近いこともあり、大会を契機として、法や施設などのハード面の改善を求める活動や、国や文化、人種、性別、障害の有無などを超えて、誰もが共に過ごし、輝ける世の中を創ることを望むハートの集まりをつくるべく、学生の視点を活かしたアイディアを発信していこうと活動する団体も発足しています。他者への理解を深めることを通して、自らの人格を形成し、共生社会の実現に主体的に貢献できる人材育成を目指す上智大学の取り組みを取材しました。
今回はユニバーサルマナー検定を受講し、学内でもさまざまな活動に取り組む3名の学生と、学生センターの事務局の方にお話を伺いしました。
・外国語学部英語学科 2年生 神野さん(後方 左)
・理工学部機能創造理工学科 4年生 山本さん(後方 真ん中)
・総合グローバル学部総合グローバル学科 4年生 長谷川さん(前方 真ん中 )
・学生センターソフィア オリンピック・パラリンピック プロジェクト(SOPP)事務局 高松さん(後方 右)
※2019年1月時点
(長谷川)私は普段車いすを使っていますが、他の障害について知る機会は今までなかったので、知りたいと思い、ユニバーサルマナー検定を受けてみようと思いました。実際、講義スライドで黒い背景に白い文字を使うことは視覚障害者だけではなく、みんなにとって読みやすいなど、知らないことも多く、目から鱗でした。自分がいかに無知で、気づいていない点が多かったかということにハッとしました。
(山本)私はゼミでアスリート義足の研究をしているので、ユニバーサルデザインには興味がありましたが、ユニバーサルマナーについては知りませんでした。ゼミの研究や私が参加している学生プロジェクトにも活かせると思い、受講を決めました。受講前はパラリンピックに関わりたいという想いが強かったですが、受講後はスポーツだけではなく、障害者の日常生活など、日頃からできるサポートについても考えるきっかけになりました。
(神野)私はホテルのフロントでアルバイトをしていますが、車いすのお客様が来られた時の対応が変わりました。検定を受ける前は、カウンターの高さを気にしたことがなかったですし、自分に何ができるのかを考えることもできていなかったように思います。今は資料を持ってカウンターの前に行き、車いすのお客様の目線で説明をするなどの対応ができるようになりました。
(高松)ユニバーサルマナー検定を通じて学生の視点が変わっていく、その変化を実感できると感じたからです。検定を受けた学生の中には「○○には車いすの人がたくさんいて、オストメイト対応のトイレもあった!」と、休日に遊びに行った場所のバリアフリー情報を報告してくれる学生もいます。友達とただ遊びに行った場所でも、障害のある方や多様な方の視点に立って考えることができるようになった学生を見ていると、今後も続けていきたいと思います。多くの企業が、ユニバーサルマナー検定を導入されているとのことですが、本学としては社会に出る前の大学生の内に、ユニバーサルマナー教育を取り入れることに意義を感じています。
今回お話を伺った3名の学生は、検定を受けるだけにとどまらず、学内のさまざまな活動に積極的に参加されています。上智大学の学生主体の取り組みについても質問してみました!
(長谷川)そもそも、キャンパスマップにバリアフリー情報が記載されていなかったので、私のような障害のある当事者の学生もチームに入り、2017年6月、7月、11月と複数回に渡り、学内のアクセシビリティを調査しました。普段生活している大学内の情報を集められたことはもちろんですが、当事者の視点を活かしたマップを作成できたことが嬉しかったです。調査報告会では、どのような配慮があることが望ましいか、また、すぐに始められるサポートについても提言しました。
(高松)東京オリンピック・パラリンピック競技大会のみならず、ボーダーレスな共生社会の実現を展望する機会を提供することを目的に、2016年4月に発足しました。これまでに、リオデジャネイロ・平昌で行われたパラリンピックへの調査団派遣や、ボランティアの育成講座などを行っています。このプロジェクトに参加している学生の多くが、ユニバーサルマナー検定を取得し、学生ならではの視点を活かした活動を中心的な存在となって、展開し始めています。
(神野)平昌では、競技観戦や来場者へのインタビューに加えて、現地の大学やリハビリテーションセンターを訪問し、ソウル市内のアクセシビリティ調査をしてきました。アクセシビリティ調査では、ソウル市内から現地の大学まで行くルートを車いすで進みました。道中、たくさんの方が声をかけてくれたので、当事者の目線で声掛けの大切さを実感でき、自分もさらに声をかけようという気持ちになりました。
(山本)大会の会場から一番近い大学、という立地を活かした取り組みをしたいと考えています。例えば、既に大学内にあるムスリムの学生に配慮したハラルフードの学食や祈りの部屋、学生が身体や心を休ませることができる部屋を開放し、「大会期間中の多様な方の受け入れ」ができないかというアイディアも出ています。また、開会式に合わせてパブリックビューイングをするといった意見も出ているので、今はそうしたアイディアを形にしていくことを意識して活動しています。多様性が強みの大学ですし、せっかくユニバーサルマナー検定を取得したので、その点を活かして大学内で「ミニ共生社会」が実現できると嬉しいです。
(高松)2018年11月には、学内の教職員にユニバーサルデザイン・ユニバーサルマナーについて知ってもらうための講演会を開催しました。そこには約350名の教職員が参加し、受講後には「ダイバーシティや障害学生支援とリンクさせ、大学における取り組みの重要性を考えたい」という意見なども挙がりました。今後は検定の定期開催や人事研修としての導入を視野に入れることで、ユニバーサルマナーを体現している大学になることを目指しています。また、学内のハード面では、学生でもできるリフォームの実施、アクセシビリティマップの更新、学内のサポート情報の公開により、情報を可視化していきたいです。さらに、外部組織との連携を強化することで、ユニバーサルマナーの早期教育にも携わっていきたいと考えています。